皿洗いをめぐり夫婦が衝突

「いや、今のは悪かった。そういう意味で言ったんじゃなくて」

「じゃあ、どういう意味?」

別に拓哉を責めるつもりはなかったが、胸の奥にたまっていたものが一気にせり上がってきた。

「私だって皿洗い好きじゃないよ。ご飯作るのも、洗濯するのも、やりたくてやってるわけじゃない」

「それは分かってるけど……」

「ほんとに分かってる? 私が夕飯作ってる間も、食器洗ってる間も、拓哉はずっと休んでるよね。洗濯だって、お風呂掃除だって、いつも私1人でやってるんだけど」

拓哉は言葉に詰まり、テレビの音だけが妙に大きく聞こえた。

「俺だって、言ってくれればやったよ」

その一言に、実花は眉を寄せた。

「それが嫌なの。なんで私が毎回『あれやって』『これやって』ってお願いしなきゃいけないの? 家事は私だけの仕事だと思ってるの?」

「いや、別にそういうつもりじゃ……」

「こうなった原因は分かってる。いつも私のほうが先に気づいて、つい自分でやっちゃうから。でもさ、私がやって当たり前になってるのは違うでしょ」

自分でも驚くほど言葉が止まらなかった。

昨日今日の話ではない。約2年半の結婚生活で、何度も飲み込んできた不満が、拓哉の一言で一気に噴き出したのだ。

拓哉はしばらく黙ったあと、リモコンの停止ボタンを押した。

「……ごめん。実花がそんなにため込んでたなんて知らなかった」

「まあ、はっきり言わなかった私も悪いけど」

「でも、任せきりにしてたのは本当だからな」

実花は黙って拓哉を見る。

「これからは俺もやる。ちゃんと分担しよう」

「ほんとに? 口だけじゃなくて?」

「うん。皿洗いも洗濯も、俺に任せて」

その言葉を聞いて、実花の肩から少し力が抜けた。すぐに全部が解決するとは思えない。それでも、拓哉が自分から家事をやると言った以上、彼を信じてみたかった。

「じゃあ、明日からね」

「分かった」

大きくうなずく拓哉を前に、実花は小さく息を吐いた。しばらくして再び動き出したテレビ画面を眺めているうちに、いつの間にか苛立ちは静まっていった。

●共働きながら、夕食作りから洗濯、風呂掃除まで家事の多くを担ってきた実花。何気なく皿洗いを嫌がる夫・拓哉の一言をきっかけに、2年半飲み込んできた不満を初めてぶつける。反省した拓哉は「ちゃんと分担しよう」と約束するが、実花を待っていたのは…… 後編【「これで、やったつもりなの?」皿洗いも料理も始めた夫…それでも妻の負担が減らなかった“落とし穴”】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。