背後で玄関のドアが閉まった瞬間、実花は小さく息を吐いた。今日も朝からトラブル続きで、ほとんど自分のデスクに座っていられなかった。
「疲れたあ」
誰もいない部屋でつぶやき、バッグを置く。本当なら、このままソファに沈み込みたい。だが時計を見ると、もうすぐ7時だった。
家事に追われる妻
「ご飯作らないと」
実花は素早く着替えを済ませると、そのまま足早にキッチンへ向かった。
今夜は生姜焼きと簡単なサラダ、スープは冷凍ストックでいいだろう。キャベツを千切りにし、鍋に凍ったスープを放り込んだところで、玄関の鍵が開く音がした。
「ただいまー」
「おかえり」
夫の拓哉がリビングへ入ってきて、キッチンを覗く。
「お、今日は生姜焼き?」
「うん。もう少しでできるよ」
「やった。腹減った」
そう言って拓哉は寝室へ着替えに向かった。間もなく戻ってくると、ソファに腰を下ろし、迷わずテレビをつけてスマートフォンを手に取る。実花はその背中をちらりと見てから、フライパンに豚肉を並べた。
悪気がないことは分かっている。拓哉は実花に夕食を作れと命じたことはない。ただ、実花のほうが早く帰宅できることが多く、料理も苦手ではないため、自然とそうなっているだけだ。
