頼めば動く夫と頼まない妻

「できたよー。運んでくれる?」

「了解」

声をかけると、拓哉が箸や皿を並べてくれる。席に着くなり、生姜焼きを頬ばった拓哉が言った。

「うまいね、これ」

「ほんと?」

「うん。味付けがちょうどいい。スープもうまいし」

「よかった」

食事中は、今日あったことを互いに話した。

取引先の会社で偶然同級生と再会したこと、最近赴任した上司の愚痴。たわいのない会話を交わしていると、時間があっという間に過ぎていく。食べ終えると、拓哉は椅子にもたれた。

「あー、食った。ちょっと休憩」

「お皿片付けちゃうね」

そう言って先に席を立ったのは、やはり実花だった。食器をシンクへ運び、皿やフライパンを洗う。生ごみをまとめ、ゴミ受けも空にした。最後にシンク周りへ飛んだ水を布巾で拭き取る。

「なんか手伝う?」

ちょうど布巾を絞り終えたところで、背後から拓哉の声がした。

「もう終わったよ」

「そっか。ありがとう。俺、風呂入ってくるわ」

拓哉は天井へ向けて伸びをしたあと、風呂場の脱衣所へと入っていった。

頼めば一応やってくれることは実花にも分かっていた。ただ、いちいち指示するくらいなら、自分で済ませたほうが早いと思う一方で、家事が自然と実花の仕事になっている現状に疑問を持っていないわけでもない。

――同じように働いて帰ってきたのにな。