「ウイッシュ」を得るための「12-4」
AI活用でより重要になる「人」の役割

そこで、浜田氏が目指すウェルスマネジメントビジネスの基本的な考え方を改めて尋ねた。

「ゴールベースアプローチと言われますが、お客さまからゴールを聴取するのは容易ではありません。私はゴールではなく、お客さまからウィッシュをお伺いしようと言っています。それをプロファイリングして、順次、実現していくためのお手伝いをする。また、私たちは単にお客さまのリターンを最大化するのではなく、取るべきリスクの範囲内でリターンを最大化する。当社はあらかじめ、お客さまが許容できるリスクを示したうえで運用を開始しているため、相場が変動した局面でも強さを発揮します」

そのようなスタイルを徹底するためにもアドバイザーとして最も大切な資質は「謙虚さ」であるという。アドバイザーである以上、自信をもって顧客に提案することは重要だが、想定通りにならなかった場合のことも考えて、準備を整えることが求められる。そのような謙虚さが必要なのだという。
 

同社が顧客に提供している「Statement Note」

同時にアドバイザーへの行動規範として「12-4(Twelve-Four)」という名称の取り組みを打ち出した。年間12回はお客さまと接点をもち、このうち4回は、特に十分に時間をかけてポートフォリオのレビューについて対応していくというルールだ。

テクノロジーも積極的に活用している。「P D N a v i ( P r o f e s s i o n a l
Development Navigator)」と呼ぶ人材開発育成プログラムはそのひとつだ。社員一人ひとりが自分の立ち位置を確認し、プロフェッショナル到達に向けて自律的な学びや成長を図ることができるプラットフォームを用意している。

テクノロジーの活用はさらに広げていくという。もちろん、AI(人工知能)の活用はその主軸となる。

「モルガン・スタンレーはAI投資に非常に力を入れています。この点、当社との間にはかなりのギャップがあり、今後、注力していかなければならない。というのも、AIを取り込まなければ、大きな遅れをとりかねない時代になっていくと考えているからです」

モルガン・スタンレーでの取り組みを身近に知ることができる立場だからこそのシリアスな感想である。

「AIアナリシス、AIマーケティング、そして顧客とのコミュニケーションへの活用もあります。AIによって行動そのものを管理していく『ネクスト・ベスト・アクション』という考え方があり、これらの分野に注力していくということになります」

ちなみに、AIの活用を巡っては、しばしば、「AIが人の仕事を奪う」、あるいは「人に代わるAIの時代が訪れる」という予測が現れがちだが、浜田氏はそれにはくみしない。

「人間の役割はむしろ、大きくなるでしょう。AIを成功させるために最も重要なのは生きた情報の収集~データベースの構築ですが、これは人間が行うべき仕事ですから。また、AIが導き出した答えをどのような言葉でお客さまに伝えるのかは、人間のセンスが問われるでしょう。どのような質問をするかというイマジネーションも人間の仕事です」

求められるのは、センスに優れて、イマジネーションが豊かな高度人材である。そのような人材の育成のためにも、ノルマを撤廃して、評価、処遇などの改革を断行し、多面的で精緻な評価尺度によるアドバイザーの育成プログラムを構築したとも言えるだろう。

アドバイザリー業務にも世界的にみても最新鋭と言えるITツールを投入した。米国の有力運用会社ブラックロック社が提供しているリスク管理システム「Aladdin(アラディン)」である。実は、わが国のなかでアラディンの卓越性を最も認識している一人と言っていいのが浜田氏にほかならない。というのも、同氏はブラックロック社の幹部を務めていた際、同システムの有効性を確認してきたからである。なかでも強い印象を受けたのが、モルガン・スタンレーのウェルスマネジメントにおけるアラディンの活用事例である。従来投資銀行が中心であったモルガン・スタンレーが、ウェルスマネジメントで一躍、最高峰へと躍り出たとき、「とるべきリスクの範囲内でリターンを最大化する」という哲学の下でアラディンを採用し、その成長を下支えした過程を目の当たりにしていた。

5年後も達成状況は変わらない?
「目指すレベルや環境は変化し続ける」

浜田氏は今、「社員のマインドセットは9合目、社員のビヘイビア(行動)への浸透は7合目、ビジネスのポートフォリオやスケール化は5合目と評価している。これは、NPSや社員の満足度、1人あたりの生産性を含めて6年前に私が想定したものと比較すると、極めて速いスピードでここまで到達しました」と語る一方で、次のように手厳しい評価も下している。

「社員のビヘイビアへの浸透が7合目にとどまっていると考えるひとつの理由は、12-4の行動規範が実行されていても、具体的にみると、対応しにくいお客さまには十分に機能していないからです」

しかし、アドバイザリーの現場の肩を持つわけではないが、限られた範囲の取材ながら「ファンドラップで四半期に一度、ヒアリングに訪れてリバランスを提案してくれるのはMUMSSだけ」という評価の声は富裕層の人々からしばしば耳にする。それでも、不十分とみるのは、要求水準の高さを物語っているということかもしれない。

浜田氏はそれを裏付けるように言葉を続ける。
「おそらく、5年後に同じ質問をされても、7合目、5合目と同じ回答をするかもしれません。なぜ、ですか?私が目指すレベルや環境も変化していくからです」

要するに、ゴールの見えない長いレースがこれからも続くということだろう。そのなかで肝要なのは「美しいフォームで走り続けることだ」と浜田氏は強調する。
「短期的にがむしゃらに走ってしまったら、中長期的にきちんと走り続けることはできません。私は今、きれいごとを貫くべき時代が訪れていると痛感しています。真剣な姿勢できれいごとを貫く。私はそうしたいと考えています」

より優れたアドバイザリーサービスへの追求へ。MUMSSの疾走はこれからも続くことになる。