資産形成・資産運用にまつわる実践的かつ効果的な情報提供を行うMUFG資産形成研究所。同研究所のウェブサイトに掲載された論文・レポートを再編集してお届けする(掲載元の執筆日:8月5日)。
1.はじめに
75歳以上の高齢者について、金融所得を医療保険料や医療機関窓口での自己負担割合の判定に反映させることを盛り込んだ健康保険法改正案が、2026年4月28日の衆議院本会議および5月29日の参議院本会議でそれぞれ可決・成立しました。
本改正は75歳以上の後期高齢者を対象とするものですが、今後の制度運営の方向性によっては、若年層や中堅層を含む資産形成全体の前提に影響を及ぼす可能性があります。
本稿では、金融所得の取扱基準の見直しに至った背景や具体的な内容を整理するとともに、今後想定される影響について考察します。
なお、本稿の内容は、成立した法改正の方向性と、厚生労働省で示されている制度設計の考え方を前提としており、実際の対象範囲や算入方法等については、今後の政省令や運用通知等により変更される可能性があります。
2.金融所得の取扱いに関する課題
現在、国民健康保険、後期高齢者医療制度および介護保険においては、被保険者の市町村民税の課税所得を基礎として、保険料や医療・介護における窓口負担割合が算定されています。
このうち、上場株式や投資信託等の配当・分配金・譲渡益といった金融所得については、確定申告を行うか否かを本人が選択できる仕組みとなっています。そのため、確定申告の有無によって医療・介護における保険料や窓口負担割合に差が生じることから、負担能力の把握・反映という観点から課題があるとの指摘がなされています[図表1]。
[図表1]現行の収入の種類と保険料・窓口負担割合の関係(令和8年度のイメージ)
※給与収入は、確定申告の有無にかかわらず、課税所得の計算に算入される。
給与所得者の医療保険料等の幅は、介護保険料の有無によるもの。
その結果、後期高齢者医療制度においては、現役並みの所得がある場合には、原則として窓口負担割合は現役世代と同様の3割負担となりますが、その所得の大半が申告を伴わない金融所得である場合には、依然として1割負担にとどまるケースが生じています。
※「現役並みの所得がある場合」とは、同一世帯に住民税課税所得が145万円以上の後期高齢者がいる場合などを指します。なお、住民税課税所得とは、収入から基礎控除や社会保険料控除等の各種控除を差し引いた後の所得をいいます。
こうした状況を踏まえ、年齢にかかわらず公平な応能負担を実現する観点から、高齢者の窓口負担割合等に金融所得を反映させるべく、具体的な法制上の措置が講じられることとなりました。なお、NISA口座における非課税の運用益は対象外とされています。
今回の見直しは、表面上は75歳以上の後期高齢者を対象とした制度改正ですが、その影響は将来の受給世代、すなわち現在資産形成を行っている若年層・中堅層にも及ぶものと考えられます。
なお、本改正は金融所得そのものに新たな課税を行うものではなく、金融所得を医療保険制度における負担能力の判定に反映させるものです。


