6.ケーススタディ

上場株式等の配当・分配金・譲渡益などの金融所得が、後期高齢者医療制度における保険料や窓口負担割合の算定に反映される制度設計が導入された場合、資産の保有方法や取り崩し方法によって負担額が大きく変わる可能性があります。

この場合、重要となるのは保有している資産の総額そのものではなく、課税口座で生じる配当金、分配金、譲渡益などが、どの年度に、どの程度「所得」として計上されるかです。同じ資産規模であっても、所得の発生時期や受け取り方によって、保険料や医療機関での窓口負担割合に違いが生じることがあります。

なお、本試算は制度理解を目的としたものであり、実際の保険料額や負担割合の判定結果を示すものではありません。実際には、世帯構成、年金収入、各種所得控除の内容、自治体ごとの保険料率などによって結果は異なります。

ケーススタディ(1)
高配当株・高分配投信を課税口座で持ち続けると負担が大きくなるケース

◆論点

高配当株や高分配型投資信託は、定期的な収入を得やすい一方で、課税口座で保有している場合、配当・分配金が金融所得として反映されることになります。制度改正後は、これが医療保険料や窓口負担割合の判定に影響する可能性があります。

◆前提
・対象者:75歳以降の単身世帯
・公的年金収入:年間180万円
・保有資産:3,000万円(投資元本1,500万円、評価益1,500万円)
・配当・分配金:年間120万円(特定口座:税引き後受取額96万円)
※本稿では説明の便宜上、税引き後受取額を所得判定上の金融所得相当額として仮定しています。
・NISA口座内の配当・分配金等は判定対象外
・配当・譲渡益に対する税率は一律20%として試算(他のケーススタディも同様)

比較

 

※1:賦課のもととなる所得金額:公的年金収入180万円-公的年金等控除110万円-基礎控除43万円として試算。
※2:賦課のもととなる所得金額27万円+金融所得として反映される額96万円として試算。
※3:均等割56,083円+判定所得123万円×10.17%として試算。

◆このケースからの示唆

NISAは単なる税制優遇制度ではなく、将来的には社会保険負担を抑えるうえでも有効なツールとなり得ます。特に、高齢期に定期的な配当や分配金を受け取る設計では、課税口座に偏らせるか、NISAを活用するかによって、手取りだけでなく医療・介護関連の負担にも差が生じる可能性があります。

※高配当株や高分配型投資信託は、安定したキャッシュフローを確保する有効な運用手法の一つであり、本ケーススタディはその優劣を示すものではありません。あくまで金融所得が各種判定に反映される制度を前提とした場合の影響を示したものです。

ケーススタディ(2)
75歳以降に課税口座で譲渡益を計上すると負担が大きくなるケース

◆論点
同じ資産を取り崩す場合でも、課税口座で75歳以降に売却して毎年譲渡益を計上するのか、それとも75歳になる前に一括売却・利益確定して取得価額を引き上げておくのかによって、後期高齢者医療制度における保険料や窓口負担割合に影響が生じる可能性があります。

◆前提
・対象者:75歳~94歳の単身世帯
・公的年金収入:年間180万円
・保有資産:特定口座8,000万円(投資元本4,000万円、評価益4,000万円)
・20年間で均等額を取り崩し

◆比較

 

※1:評価益4,000万円×税率20%として試算。
※2:再投資後の投資元本7,200万円*÷20年として試算。*投資元本4,000万円+評価益4,000万円×(100%-税率20%)
※3:保有資産8,000万円÷20年として試算。
※4:75歳前の一括売却・利益確定により取得価額が引き上げられ、75歳以降の譲渡益が極めて限定的であるものと仮定し、金融所得を0円として試算。
※5:年間取り崩し額400万円の評価益分200万円×(100%-税率20%)として試算。
※6:賦課のもととなる所得金額:公的年金収入180万円-公的年金等控除110万円-基礎控除43万円として試算。
※7:賦課のもととなる所得金額27万円+75歳以降に反映される金融所得160万円として試算。
※8:均等割56,083円+判定所得187万円×10.17%として試算。

◆このケースからの示唆

長期運用等により大きな含み益を保有している場合、高齢期の資産取り崩し時に大きな譲渡益が発生しやすくなります。そのため、75歳以降は「いくら取り崩すか」だけでなく、「いつ利益を確定するか」という視点も重要になります。高齢期の出口戦略を検討する際には、税負担だけでなく、医療保険料や窓口負担割合を含めた総負担の観点から考えることが重要です。

※一括売却・利益確定を行った場合には、税負担の前倒しに加え、その後の再投資収益や運用環境等の影響を受けるため、一律に75歳前の利益確定が有利となるわけではありません。

ケーススタディ(3)
課税口座とNISA口座の同時並行取り崩しで負担が大きくなるケース

◆論点

NISA口座で生じた運用益は非課税であり、金融所得として反映されませんが、課税口座から取り崩す場合に生じた譲渡益は金融所得として反映されます。そのため、同じ金額(税引き後)を取り崩す場合でも、NISA口座から先に取り崩すのか、それとも課税口座から取り崩すのかによって、75歳以降の後期高齢者医療制度における保険料や窓口負担割合に差が生じる可能性があります。

◆前提
・対象者:70歳~79歳の単身世帯
・公的年金収入:年間300万円
・保有資産:6,400万円(特定口座3,400万円、NISA口座3,000万円)
特定口座:3,400万円(投資元本1,400万円、評価益2,000万円)
NISA口座:3,000万円(投資元本1,500万円、評価益1,500万円)
・10年間で税引き後ベースでの均等額を取り崩し

◆比較

 

※1:(パターンB)70~74歳:特定口座300万円(投資元本140万円、税引き後売却益160万円*)、75~79歳:NISA口座300万円(投資元本300万円、売却益300万円)として試算。評価益200万円×(100%-税率20%)
※2:(パターンA)特定口座150万円(投資元本70万円、税引き後売却益80万円)+NISA口座150万円(投資元本75万円、売却益75万円)として試算。*評価益100万円×(100%-税率20%)
※3:説明の便宜上、再投資後の売却益がほとんど発生しないものと仮定し、金融所得を0円として試算。
※4:特定口座の税引き後売却益80万円として試算。
※5:賦課のもととなる所得金額:公的年金収入300万円-公的年金等控除110万円-基礎控除43万円として試算。
※6:賦課のもととなる所得金額147万円+75歳以降に反映される金融所得80万円として試算。
※7:均等割56,083円+判定所得147万円×10.17%として試算。
※8:均等割56,083円+判定所得227万円×10.17%として試算。

◆このケースからの示唆

生涯を通じた税・社会保険負担の最適化の視点では、75歳以降に課税口座の売却益を発生させないよう、70歳代前半までに特定口座を優先的に取り崩し、75歳以降はNISA口座を活用するといった計画的な出口戦略が有力な選択肢の一つとなり得ます。

3つのケースから見える共通ポイント

 

総括

以上のケースから分かるように、制度改正後は、老後資金の出口設計において、「資産額」だけでなく、金融所得がいつ、どのように反映されるかが重要な論点となります。高配当株や高分配型投資信託、課税口座での大きな譲渡益、特定口座とNISA口座の取り崩し順序は、いずれも医療保険料や窓口負担割合に影響を及ぼし得ます。したがって、今後の資産形成では、税制上の有利不利だけでなく、社会保険負担を含めた生涯の総負担を見据え、計画的な資産の取り崩しを含む出口戦略がこれまで以上に重要になると考えられます。

◆注記
・本ケーススタディは、上場株式等の配当・分配金・譲渡益などの金融所得が、後期高齢者医療制度における窓口負担割合および保険料算定へ反映される制度設計が導入された場合を想定した試算例です。なお、制度改正の影響を分かりやすく説明するために単純化したモデルケースであり、実際の投資成果、税負担および社会保険料負担を予測または保証するものではありません。
本文中の金融所得は、説明の便宜上、一定の仮定に基づいて算出したものであり、実際の制度における算入対象や算入方法を示すものではありません。
・本文中では説明を簡潔にするため、所得控除、社会保険料控除、扶養関係、住民税非課税判定および各種軽減措置等については考慮していません。
本文中の保険料は、厚生労働省公表の令和8・9年度の全国平均の見込み額を基にしており、実際の保険料額とは異なる場合があります。
・本文中の判定所得、窓口負担割合および保険料は、説明を目的とした概算値・試算値であり、実際の判定結果や賦課額を保証するものではありません。
・実際の制度内容、判定基準、金融所得の算入方法、保険料率ならびに各種控除等については、今後の法令、政省令、通知および自治体の運用等により変更される可能性があります。