夫婦として歩み出す再構築の一歩
なりふり構わず涙を流す和彦の姿に、由紀子は息をのんだ。
「……離婚は一度保留にします。でも、元の関係に戻るわけではありません。これからのあなたの姿勢次第です」
その日から、和彦の家庭内での「改心」が始まった。
指示や命令、余計な口出しは一切封印。今まで任せきりだった家事を妻に頭を下げて一から教えてもらい、毎朝のゴミ出しと食後の食器洗いは和彦の担当になった。それ以外のことも、「何か手伝えることはあるか?」と、まず由紀子の言葉に耳を傾ける生活を徹底した。
あれから半年。夫婦で並んで台所に立ち、夕食の準備をするのが日常になった。
「あなた、最近だし巻き卵の形がきれいになったわね」
包丁を動かしながら妻がふっと表情を緩めた。この柔らかい笑みを、現役時代は一度も引き出すことができなかった。
和彦はかつて一人で作成し、勝手に押し付けようとしたセカンドライフ計画書を破棄した。2500万円の使い道は、一方的に指示を出すのではなく、家族と向き合い「これからどう過ごしたいか」を話し合いながら決めることにした。
失った38年という時間は戻らない。だが、同じ目線で向き合い笑い合える日々を、これから少しずつ築いていこうと和彦は決意した。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
