<前編のあらすじ>
十分な稼ぎのある共働き夫婦。筋トレに執着する夫・健太は、夫婦の共通口座から毎月8万円を筋肉に注ぎ込む一方、残業続きの妻・由香との会話や食事の時間を「無駄」だと拒絶していた。
誕生日に「一口一緒に食べてほしい」と買ったケーキすら軽蔑された由香は、孤独の極みの中で静かな復讐を決意する——。
●前編【「君の雑談は無駄」筋トレ沼にハマった夫に幸せを奪われた妻…冷え切った食卓で誓った「復讐の方法」】
筋肉を奪われた男の錯乱
「おい! なんでサプリの決済が落ちないんだよ! 家族カードが使えなくなってるぞ!」
休日、海外製の高級プロテインとサプリメントを購入しようとした健太が、リビングで怒号を上げた。PC画面には「エラー」の文字。
由香はコーヒーを静かに飲みながら、冷ややかな視線を向けた。
「ああ、そのカード、解約したから。あと、これまでの3年間の家計口座の明細と、私の個人口座の履歴。遡って整理したの」
由香がテーブルの上に滑らせたのは、1冊のファイルであった。そこには、健太が「健康投資」と称して共有口座から引き落としていた月8万円、年間約100万円の筋肉関連費用と、由香が残業代から補填していた家計の差額が、グラフとなって可視化されていた。
「どうしてそんな勝手なこと……」と言いかける健太を、由香は凛とした声で遮る。
「勝手なのはどっち? あなたが筋肉に使っていたお金は、本来2人のお金よ。私との会話を『時間の無駄』『ストレスの元』って切り捨てたのはあなたでしょ? 私との時間を無駄だと言うなら、私の稼ぎが含まれた家計から、あなたの筋肉に消えていくお金だって私にとっては完全に『無駄』なの」
