失って初めて気づいた「一番の毒」
1ヵ月が過ぎた頃、健太の表情からかつての傲慢さは消え失せていた。
自分の筋肉を守るために、一番大切だったはずの妻の心と、温かい家庭を破壊してしまった——。静まり返った部屋で1人食べる味気ないプロテインは、まるで砂を噛むようであった。
ある夜、健太は涙を浮かべながら、由香の前で深く頭を下げた。
「由香……本当に悪かった。僕は筋肉を鍛えることに夢中で、君の心を踏みにじった。食事の価値は栄養だけじゃない。君と笑いながら話す時間が、僕の人生にとって一番必要なものだったんだ。頼むから、もう一度チャンスをくれないか」
頭を下げ続ける健太を見つめながら、由香は胸の中にすっと冷たい風が吹き抜け、そして心が軽くなっていくのを感じた。由香は落ち着いた声でこう告げた。
「謝ってくれてありがとう。でもね、これからは完全に独立した対等な個人として、お互いをリスペクトできるか試させてもらうわ」
現在、2人は離婚を回避し、新たな関係を構築している。食費は完全に分離し、平日は別々に食事をとる。しかし金曜の夜だけは、健太が由香の行きたいお店を予約し、支払いは健太の奢りで、笑顔でカンパイをする。それが2人の新しいルールとなった。
健太は今、美味しそうにグラスを傾ける由香の笑顔を見ながら、噛み締めるように思っている。「最高の栄養素は、妻の笑顔とたわいもない会話だった」と。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
