娘からの助言で気付いた大切なこと

その夜、和彦は娘の恵美に向かい合った。由紀子を止めてほしいと縋るためだ。

「恵美、お前からお母さんに言ってくれ! お父さんは家族のために必死で働いてきたんだ。良かれと思って家事に口出したのも、これからの暮らしを思ってのことで……!」

恵美は心底あきれたように溜め息をついた。

「お父さん、まだ分かってないんだね。ずっと家のことを丸投げにしてきたくせに、定年して暇になった途端に上司気取りで口出ししてくるのが、一番うっとうしいんだよ」

恵美はスマホの写真を見せてきた。運動会、発表会、卒業式。どれも母と恵美の二人しか写っていない。

「お父さんは学校の行事も『仕事だ』って一度も来なかった。これまでろくにコミュニケーションもとってないのに、定年した途端、『一緒にセカンドライフを楽しもう』とか言われてもね。今は家に居座って『やり方が悪い』『効率が悪い』って説教でしょ? 家族はお父さんの部下じゃないんだよ。お母さんが一人でどれだけ苦労してこの家を回してきたか、考えたこともないでしょ」

胸の奥が激しく痛んだ――自分がどれほど身勝手で滑稽だったかに、ようやく気づいた。

「俺は……間違っていた……」

プライドを捨てた土下座で謝罪

「だったら謝ってよ。『養ってやった』『教えてやる』って顔をやめて、今までの身勝手さを正面からお母さんに謝って」

恵美の言葉を聞き、和彦は静かに立ち上がり、ふらふらとした足取りで2階へ向かった。由紀子の前に歩み寄り、首を垂れ、床にひざまずいた。元部長のプライドも肩書も捨て、初めて土下座をした。

「……すまなかった、由紀子。俺が間違っていた。ずっと家事を任せきりにして負担をかけてきたのに、定年して暇になったからと偉そうに指示や口出しをして、どれだけお前を傷つけたか……本当にすまない。これからは一から家事も学ぶ。だから家族の一員としてやり直させてくれほしい。頼む、チャンスをくれ……」

床にポタポタと涙がこぼれ落ちた。