<前編のあらすじ>
埼玉県のベッドタウンに暮らす、世帯年収約700万円の佳子さん(仮名・43歳)一家。
ひとり娘の「中学受験してみたい」という言葉をきっかけに、夫婦は初めて本気で家計と向き合いました。合言葉は「全員、自炊と水筒」。外食もレジャーも削り、塾代を捻出する日々が始まります。
●前編:「中学受験してみたい」娘のひと言で始まった節約生活…世帯年収700万円の一家が掲げた合言葉は「全員、自炊と水筒」
好調だった成績が、5年生から下がり始めた
入塾当初、娘の成績は悪くありませんでした。学校の勉強が得意だったこともあり、クラスも真ん中より上。佳子さんはひそかに、「このままなら、それほど苦労せずに受験できるかもしれない」と考えていました。
ところが小学5年生になると、成績が下がり始めます。学習内容が難しくなり、授業の進度も速くなると、理解があいまいな単元が増えました。算数は一度つまずくと次の単元にも影響し、模試の偏差値はじわじわ下降。クラスも下がりました。
周囲では、個別指導を併用する家庭が増えていました。「算数だけ家庭教師をつけた」「個別指導塾へ行っている」という話も耳に入ります。
しかし佳子さん一家に、毎月数万円の追加費用を出す余裕は一切ありません。
「成績が下がっているのに、お金がないから何もしてあげられない。そのことが一番つらかったです。私がもっと稼げれば、と何度も思いました」
パートの時間を増やすことも考えました。実際に、佳子さんは娘が5年生からは扶養を外れ、週4日5時間働くようになります。しかし通塾は車で送迎する必要があり、さらに宿題や復習の進み具合も気になりました。収入を増やせば伴走する時間がなくなり、時間を確保すれば収入が増えない。中学受験家庭が抱える、見えにくいジレンマでした。
「外注できないなら、私がやるしかない」
佳子さんは腹をくくりました。「個別指導に行けないなら、家でできることを全部やろう。私が先生になるのではなく、娘が塾を使い切れるように支えよう、と決めました」
中学受験の問題を家庭で教えるのは至難の業です。そこでまず、塾のテストとノートを見返し、娘の間違いを単元ごとに分類しました。同じような問題を繰り返し落としているときは、生成AIに数値替えの類題を作ってもらいました。
佳子さんが実行したのは、自分で難しい問題を教えることではなく、娘が「わからない問題」を効率よく塾で質問できるよう促すことでした。
「娘は質問するのが苦手で、授業後も先生に声をかけられず帰ってくることがありました。そこで、質問したい問題に付箋を貼り、聞く内容を一緒にメモ。『今日はこの1問だけでいいから聞いておいで』と送り出しました。質問して理解したら、もう一度その問題をノートに貼って、後日解く、そこまでをセットにしました」
一郎さんも、仕事から帰ると暗記カードの相手をし、休日は娘の送迎を担当しました。家族3人の役割が、少しずつ決まっていきました。
6年生の秋、娘の成績はようやく持ち直し、第一志望校が現実的な目標として見えてきました。