<前編のあらすじ>
大手製造メーカーで部長に上り詰め、定年を迎えた坂本和彦(60歳)。現役時代は「稼ぐことこそ最大の使命」をモットーに仕事に明け暮れ、家庭のことはすべて妻の由紀子(57歳)に丸投げしていた。
既に夫婦の関係は冷え切っていた中、定年して時間を持て余した和彦は、由紀子の家事や生活に上司気取りで口出しするようになる。ついに由紀子は限界を迎えてしまい……。
●前編:「こんなはずじゃなかった…」退職金2500万円・元部長が定年、家族から感謝されるどころか邪魔者扱いの「悲惨な老後」
我慢し続けた妻の本音
「離婚……? 本気なのか、由紀子」
目の前の「離婚協議書」という文字が滲んで見えた。38年間、不自由のない生活をさせてきたはずだった。
「本気よ。あなたと過ごすこれからの20年、30年を想像すると、息が詰まって倒れそうなの」
由紀子の声には波風ひとつ立っていなかった。長年かけて諦めを積み重ね、完全に冷めきった人間の声だった。
「退職金の折半と、この家の売却益の分割を希望します。来月には家を出ますから」
由紀子はそれだけ言い残すと部屋を出て行った。足元から世界が崩れ去る感覚だった。
