9月利上げの確率が高まった理由~日米協調介入が示す長期金利抑制の本気度~

では、次の利上げは9月17~18日に開催される次回MPMで決まりなのでしょうか。確かに、「展望レポート」の書きぶりと植田総裁の記者会見から、その可能性はかなり高まったとみて良いでしょう。

そしてさらにもう一つ、日米協調介入で示された長期金利抑制に対する本気度があります。本気度といっても、ベッセント米財務長官の話ですが。

(1)日米協調介入~ベッセント財務長官が恐れる長期金利の急騰~

日米政府は7月末にかけて、為替市場への協調介入に踏み切りました(図表3)。

片山さつき財務大臣は8月3日、「米国東部時間7月31日(金)、日本国財務省は、米国財務省と協調して円買い介入を実施した」との談話を発出し、一部報道によれば、米財務省はニューヨーク連邦準備銀行を通じて複数の銀行に対し円買い介入がある旨通知した上で、ユーロ売り・円買い介入を実施したようです。

<図表3 ドル円相場と日米金利差>

出所:ブルームバーグ、楽天証券経済研究所作成

 

財務大臣談話では、「今回の協調介入は、2025年9月に発出した『日米財務大臣共同声明(*)』に基づき実施されたものであり、最近見られた円の過度な変動や無秩序な動きに対処したものである」とされ、「我々は、今後、更なる協調介入を実施することも躊躇しない」と、過度な円安を阻止しようとする政府の強い姿勢が示されています。

*昨年9月の共同声明には、「両者は、為替市場における介入が検討されるような場合、介入は、過度な変動を伴う、又は無秩序な減価・増価への対応として等しく適切と考えられるとの想定の下、為替レートの過度の変動や無秩序な動きに対処するためのものに留保されるべきことで一致した」とあります。

 

この異例ともいえる協調介入に米政府が踏み切った背景には、ベッセント財務長官の長期金利が無秩序に上昇することへの危機感があります。

1月19日に高市早苗首相が衆院解散とともに食品に対する消費税ゼロを宣言した後にも、米財務省はニューヨーク連銀を通じてレートチェック(為替介入の実務を担う中央銀行が市場参加者に対して為替の売値と買値を照会すること)を行って、円安をけん制したことがありますが、その際も日本の長期金利上昇が米国の長期金利にまで波及したことが背景でした。

日銀の利上げペースが遅いことがインフレと長期金利上昇の要因の一つとみているベッセント財務長官は、介入を実施した7月31日、「日本経済は引き続き好調に推移し、我々は強固な関係と緊密な連携を保っていく」、「8月末の20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で日銀の植田和男総裁に会うのを楽しみにしている」とX(旧Twitter)に投稿しています。

もちろん、追加利上げをもくろむ日銀とベッセント財務長官が連携しているかどうかなんて知る由もありませんが、少なくとも円安阻止の援護射撃を行った米政府の意図に反するような振る舞い、つまり利上げ阻止を狙った圧力を高市政権が日銀にかけるようなことがやりづらくなっていることが、追加利上げをしやすくしていることは事実です。

(2)FRBの7月FOMCで米国のイールドカーブがスティープ(急勾配)化

また、9月は米連邦準備制度理事会(FRB)の政策面を考えても悪いタイミングではありません。

7月28~29日に開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)では、予想通り政策金利が据え置かれましたが、その後の記者会見でウォーシュ議長の発言が利上げに消極的と受け取られたため、インフレに対して利上げが後手に回るビハインド・ザ・カーブへのリスクが意識され、米国のイールドカーブがスティープ(急勾配)化しました。

米国の長期金利を見ると(図表4)、FOMCの結果が発表され記者会見が行われた日の前日(7月28日)の2年金利は31日にかけてほとんど上昇していないのに対し、10年金利は12.8ベーシスポイント(bp、1bpは0.01%)、20年金利は17.9bp上昇しています。

<図表4 米国の長期金利(2年、10年、20年)>

出所:ブルームバーグ、楽天証券経済研究所作成

 

市場は、利上げに対して「唯一の解決策ではない」と距離を置いたウォーシュ議長の煮え切らない発言に反応したわけですが、議長は「インフレの根底にある動向を把握し、価格への波及がどれだけ広がっているかを理解しようとしている状況だ。今後数カ月で明確な判断が下せるだろう」とも述べています。

7月FOMCで利上げを表明して反対票を投じたクリーブランド連銀のハマック総裁、ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁、ダラス連銀のローガン総裁の3名は、今後もその意思が変わらないと思われること、ビハインド・ザ・カーブに陥るリスクを市場が意識していることをウォーシュ議長も当然認識していることなどを踏まえると、9月15~16日に開催される次回のFOMCで利上げが実施される可能性が高いとみられます。

金利先物が織り込むFRBの利上げ確率は8月3日現在、9月利上げの確率を62.7%しか織り込んでいませんが(図表5)、FRBの今後の情報発信に応じてさらに織り込み確率は高まっていくと予想されます。

<図表5 金利先物が織り込むFRBの利上げ確率>

注:8月3日(現地時間)時点

出所:シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)、楽天証券経済研究所作成

 

このようにFRBが9月利上げに踏み切るとすれば、為替が円安に振れないためにも、その直後に開催される9月のMPM(17~18日)で日銀も利上げに踏み切るのが、自然な流れとみることができます。

8月13日公表の7月企業物価、8月27~29日ジャクソンホール会議に注目

もちろん、日銀が為替を直接の理由に政策変更を行うことはできません。あくまで、「消費者物価の基調的な上昇率が2%の『物価安定の目標』を超えて上振れていくリスク」が高まったことを理由にするわけで、そのための布石が今回の「展望レポート」と植田総裁の記者会見で打たれたと考えれば、うまく話が閉じることになります。

となれば、物価上振れリスクがさらに高まるようなデータがこれから出てくるかどうか。前回レポートの繰り返しになりますが、やはり8月13日に発表される7月の国内企業物価指数がポイントになります。

今回の「展望レポート」でも、「企業間取引における価格転嫁がやや速いスピードで進んでおり、これが、今後、消費者段階における幅広い品目の価格上昇に波及していく可能性が高い」と警戒しています。

改めて図表6に今後の主なイベントをまとめておきました。

<図表6 今後の主なイベント>

出所:総務省、内閣府、日本銀行、FRB、BEA、BLSなど各種資料より、楽天証券経済研究所作成

 

9月MPMの前に、7月の消費者物価指数、8月の企業物価指数も確認できます。9月短観や10月支店長会議を経て、次の「展望レポート」を公表する10月MPMの方が情報発信上はスムーズに利上げできるかもしれませんが、条件が整う可能性が高いのは9月MPMと読むことができます。

というわけで、筆者のメインシナリオを10月利上げから9月利上げに変更します。

差し当たって、8月27~29日に米ワイオミング州ジャクソンホールで開かれるカンザスシティ連銀主催のジャクソンホール・シンポジウムでウォーシュ議長が次回利上げに向けたヒントを出すかどうか、8月13日に発表される7月の国内企業物価指数が6月の前年比7.1%を上回るかどうかに注目することにしましょう。