歴史的な超円安とインフレへのシフトが起こる日本経済。「失われた30年」からの脱却をポジティブに捉えるべきか、それとも危機の始まりなのか――。ストラテジストの佐々木融氏が解説します。
※当記事は6月12日の「オルイン プライベートアセット投資研究セミナー」での講演内容をもとに再構成しています。
「失われた30年」の終焉と日本経済に回るツケ
物価、給料、金利、株価が横ばいだった「失われた30年」から日本は脱却しましたが、私はこれを“先送りしたツケの支払いの始まり”と捉えています。一言で言えば「泣きっ面に蜂」であり、あらゆる外部要因がネガティブに作用しています。
投資の失敗で深刻な危機に陥る組織や人にしばしば見られる行動は、投資失敗による損失を取り戻そうとしてさらに高リスクな資産へ投資を重ね、致命的な打撃を被る負のスパイラルです。現在の日本全体もこれと同様に、過去の失敗を取り戻そうとしてさらなる泥沼に嵌まっていく状況に足を踏み入れつつあるのではないかと、私は危機感を抱いています。
金利・インフレ・為替の予測値が示す「新常態」の厳しさ
日銀による追加利上げは早い段階で実施され、最終到達点(ターミナルレート)は市場の予想以上に高くなると見ています。人手不足や原材料高により、インフレ率が今後さらに上昇を続けるためです。
これに伴い、長期金利(10年国債利回り)も3%台に入ると想定しています。1990年代にはインフレ率ゼロの局面でも10年金利が3%を超える時期がありました。インフレ率が高い現在の環境で名目金利が引き上げられるなら、長期金利が3%以上にせり上がるのは自然です。過去30年の記憶を捨て、インフレと高金利が共存した1980年代後半から90年代前半のレジームを基準とすべきと考えます。米国の金融政策についても再利上げ方向へと舵を切ることが予想され、これも日本の長期金利の上昇につながるでしょう。
主要中央銀行が利上げを維持する中、日銀がそれを追いかけていかなければ再び猛烈な円安圧力がかかります。2022〜2023年の利上げ局面で日銀が追随しなかったため歴史的な円安を招き、その後他国が利下げに動く中で日銀だけが利上げを行った局面でも、円は最弱通貨であり続けました。
円が弱い理由は金利差だけでなく国際収支の悪化という深刻な構造問題があるからです。金利差が再拡大すれば円安はさらに制御不能になります。日銀は円の価値を守るために利上げをせざるを得ず、一回程度の利上げでは到底足りません。1ドル=165円への到達も時間の問題でしょう。実質金利のマイナスと国際収支悪化が続く限り円安は止まらないと考えます。