新NISAの浸透とともに、投資家ならびに金融業界にとって資産形成における確かな指針が問われている。多様な情報があふれる今、その答えを見つけるヒントはどこにあるのか。「本当に良いファンドとは?」——日本初の投資信託専門誌『投資信託事情』の発行人として約30年にわたり業界の光と影を見つめ続けてきた島田知保氏に聞く短期連載の第2回は「巨額ファンドの変遷と金融ショックの教訓」をテーマにひも解いていく。
「グロソブ」が教えてくれたこと
島田氏が最も印象深いファンドとして挙げるのが「グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)」、通称グロソブと呼ばれる投資信託だ。当時の国際投信(現・三菱UFJアセットマネジメント)が設定したこのファンドは、先進国のソブリン債(国債や政府機関債)を毎月決算型で運用するというファンドだった。
「当時、ある証券会社がこのファンドに注目したのは、基準価額が下がるとみんなが買い増すという投資家の行動を発見したからです。ナンピン買いをして口数を増やし、毎月の分配金を受け取る。そういうニーズがあることを見つけたわけです」(島田氏、以下同)。投資家がファンドの使い方を「発見」した稀有な現象だった。
1998年の投資信託の銀行窓口販売解禁を機にグロソブは爆発的に普及、2008年のピーク時には純資産総額が5兆円を超える巨大ファンドへと成長した。2013年末当時のランキングを振り返ると、純資産残高トップのグロソブは約1兆3407億円。トップ10はすべて毎月決算型ファンドが独占していた。
しかしグロソブが残した最大の功績は、純資産総額の規模でも販売実績でもなく、「投資教育だった」と島田氏は語る。グロソブの大きな成果は、価格変動、為替変動、そして特別分配金の仕組みを多くの個人投資家に教えたことにあったというのだ。運用会社が各地に出向いて、直接投資家に語り掛けるセミナーが頻繁に開催されるようになったことも貢献した。
取材で訪れた小豆島でのエピソードは象徴的だ。島に証券会社は1社しかなく、住民のほぼ全員がグロソブを保有していたともいわれる「グロソブの島」。高齢化が進む島では、人々は毎月の分配金を心待ちにしていた。孫へのお小遣いに充てたり、ゴルフに興じたり——それが暮らしの小さな楽しみとなっていた。タクシーの運転手も飲食店の女将もグロソブを持っており、話を聞くと、為替リスクを自分の言葉で説明できたという。
「価格が変動すること、分配金には元本も含まれる場合があること、そして為替変動が大きく影響すること——それらを理解した上で投資をしていました。これは本当にすごいこと」と島田氏は振り返る。しかし、その後に試練が訪れる。2008年のリーマン・ショックだ。

