「投資」と「投機」の分岐点
リーマン・ショックを経て島田氏が痛感したのは、当時「投資」と呼ばれていた多くが実は「投機」だったのではないか、ということだ。頻繁に売買を繰り返せば、判断を誤る可能性が高まる。しかし、長期に積み上げていくことでその可能性を抑えることができる。
本当の意味での「資産運用」とは、日本の年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が実践している長期運用、あるいは株式を保有し配当を受け取り続けるような投資であり、決して短期の売買益を狙うことではない。この確信が島田氏を積立投資の啓蒙へと向かわせた。
「バブル崩壊後、日本経済は構造が根本から変わってしまいました。銀行預金ではほとんど金利がつかなくなり、預金で資産を作る方程式はもはや成立しない。現役世代には、預金と並行して投資信託で長期運用をコツコツ続けることが必要だと思います」
志を同じくする仲間とともに「コツコツ投資」という言葉を広め、SNSのオフ会「コツコツ投資家がコツコツ集まるタベ」を始めたのも、この経験がきっかけだ。
頻繁な売買は金融ショックのたびに資金の大量流出を招き、顧客にとっても販売側にとってもサステナブルではない。一方、積立投資であれば相場の荒波にも資金は安定しやすく、土台を支え得る。
投資信託の本質は、小口の資金を集めて大きな運用力に変える「集団投資スキーム」だ。島田氏が「投資信託こそ本来、"普通の人々"のための商品だ」と言うように、少額でも分散投資ができる点がその強みであり使命でもある。
かつて投資は、富裕層のものとされてきた。販売現場で「顧客の資金量」という効率が優先され、資産形成という本来の使命は十分に発揮されてこなかった。しかしNISAの普及とともに積立投資で資産を育てる層が増え、販売側にも安定した顧客基盤につながる潮流が生まれている。少額から始められる分散投資は今後、個人が将来を守るためにより求められる手段となっていくだろう。
モーニングスター・ジャパン
「投資信託事情(JITRI)」チーフ・エディター
島田知保(しまだ・ちほ)氏
国際基督教大学卒。食品会社、宇宙科学研究所(現JAXA-ISAS)、衆議院議員秘書を経て1995年より投資信託の専門誌「投資信託事情」(1959年発刊、2024年4月号にて休刊)発行人・編集長。2008年、事業譲渡によりイボットソン・アソシエイツ・ジャパンに移籍。2024年5月イボットソン会社分割によりモーニングスター・ジャパンにて活動開始。
プロ向け、一般向けを問わず、1990年代から一貫して長期・積み立て・分散投資やESG・社会的責任投資をテーマに活動。個人投資家の交流会「コツコツ投資家がコツコツ集まるタベ(東京)」共同幹事、「個人投資家が選ぶ!(旧投信ブロガーが選ぶ!)Fund of the Year」運営委員など、投資リテラシー向上のために個人投資家に向けた任意の活動も行っている。
2012年金融審議会「投資信託・投資法人法制の見直しに関するワーキング・グループ」
2017年同「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」
2016年より同「市場ワーキング・グループ」(いわゆる「老後2000万円問題」報告書)委員
2022年より同「顧客本位タスクフォース」メンバー
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本連載は、投資信託専門誌『投資信託事情』(1958年創刊、2024年休刊)の発行人・編集長を務めた島田知保氏への取材をもとに構成しました。島田氏はモーニングスター・ジャパンに在籍、金融審議会の各ワーキング・グループへの参加など、制度設計にも深く関わってきました。現在はwebサイト『モーニングスター・ジャパン』コンテンツ編集長として活躍しています。
