資産形成世代に忍び寄る影響

(1)「申告しなければ影響はない」という前提の崩れ

これまで、上場株式等の譲渡益や配当は、申告分離課税を選択し、確定申告を行わなければ、国民健康保険料や介護保険料、医療の窓口負担の算定には反映されませんでした。このため、投資による金融所得が多いが年金収入は少ないといった場合、医療・介護負担を低く抑えることができました。

しかし、今回の改正は、「金融所得を社会保障負担に反映させる」という方向性を明確に示したと受け止めることもでき、将来的に現役世代においても同様の考え方が導入される可能性を否定できません。

(2)老後の「見かけの低所得」が通用しにくくなる

資産形成層の中には、現役時代に金融資産を積み上げ、老後は年金収入に加えて金融資産の運用益で補って生活するというライフプランを想定している人も少なくありません。

しかし、金融所得が医療・介護負担に反映されるようになれば、「年金は少なめだが、金融所得は多め」の高齢者にとっては、従来想定していたよりも高い保険料・窓口負担を求められることになります。

これは、老後資金を「蓄える手段」そのものを否定するものではありませんが、金融資産を持つこと自体が社会保障負担に直結するという点で、これまでとは異なる前提での資産形成の設計が求められます。

これからの資産形成に必要な視点

(1)「税」だけでなく「社会保障」を含めた総負担で考える

資産の状況によって税や社会保険料の負担が大きく左右されることを踏まえると、今後の資産形成においては、資産を単に積み上げていくことにとどまらず、税や社会保険料を含めた「生涯を通じた総負担」という視点を持つことが不可欠となります。

特に金融所得は、将来の医療保険料の算定や自己負担割合の判定に影響を及ぼす可能性があります。そのため、収入源を一種類に偏らせるのではなく、年金や給与などへと分散・多様化し、年間所得の変動を抑えることで、そうした負担増の影響を一定程度緩和することが可能となります。

(2)NISAの役割は今後さらに重要に

金融所得の把握が強化される方向性を考えると、NISAの制度的価値は、単なる「非課税」以上の意味を持ちます。

NISA口座の非課税投資枠(成長投資枠1,200万円、つみたて投資枠600万円)を活用することで、社会保険料や窓口負担の影響を受けないというメリットも享受することができます。

(3)金融所得の「出し方」を分散させる

高齢者が近い将来に、そして資産形成層が将来直面し得るリスクとして、特定の年に金融所得が集中し、保険料や自己負担が急激に増加することが挙げられます。

このため、課税口座の資産の取り崩しにあたっては、一括売却ではなく分割・平準化した売却を行うことや、高い配当や分配金に依存するのではなく含み益を活かして計画的に取り崩すといった「出口戦略」に工夫を凝らす必要があります。