母に打ち明けた本音
日曜日に絵美は母の敦子と待ち合わせをしていたレストランに向かった。
「ごめんね。ちょっと道が渋滞してて遅くなった」
「いいえ、いいのよ」
先に席に座り、絵美の到着を待ってくれていた敦子はゆっくりと首を横に振った。それから2人で料理を注文し、世間話をしながら食べた。
正直、絵美はあまり味わう余裕がなかった。というのも、今日は敦子に離婚の話をするためにわざわざランチに出てきたのだから。
ひとり親として美咲を育てていくにあたり、必要なのはお金だけではない。実家の理解と協力だって大切だと絵美は考えていた。だからこそ、こうして敦子に話す機会を設けていたのだが、昔から真面目で少し頑固なところがある敦子がすんなりと絵美の話を飲み込んでくれるかは怪しい。実際、結婚したときも、美咲が生まれたときも、妻たるものが何なのか、母たるものが何なのか、家庭を第一に考え、決して途中で投げ出すようなことがあってはならないと何度も言って聞かされた。
だから絵美はおそるおそる打ち明けた。
「お母さん、私ね、離婚をしようと思ってるの……」
絵美は敦子の顔を見られず目を伏せながら話した。たとえどんなことを言われてもいいようにと身構えた。
「……美咲はどうするの?」
「私が引き取って育てるつもり。そのための準備もずっとしてきたから」
「……だったら私から何の言うことはないわね」
敦子がすんなりと受け入れたことに絵美は驚いて顔を上げた。
「……え? 反対しないの?」
「しないわよ。あなたが決めたことなんだから」
そう言って敦子はコーヒーを口に運んだ。全く想像と違う反応に絵美は言葉が出なかった。
「それにね、私が離婚に反対する資格なんてないわよ」
「……どういうこと?」
「私もお父さんと別れようと思っているから」
敦子から発せられた言葉を聞いても、絵美はしばらく理解をすることができなかった。
●5年前の不倫以来、夫・義之との結婚生活に見切りをつけ、離婚を決意した絵美。反対を覚悟して母・敦子に打ち明けたところ、返ってきたのは予想もしなかった言葉だった…… 後編【不倫夫との決別を決めた娘に母がまさかの告白…離婚をめぐる母娘の連鎖が開いた再出発の扉】にて、詳細をお伝えします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
