疲れた妻と見て見ぬふりの夫

4月からの慣れない新生活でばたばたしていたせいか、ゴールデンウィークが明けるころになると泰司たちの疲れはピークだった。連休とはいえ、博樹の遊び相手をしなければならず、お互いの両親がかわるがわる遊びに来たりするためにほとんど気持ちは休まらなかった。

泰司が風呂からあがると、リビングではゆかりがコンビニスイーツのロールケーキを食べていた。

ゆかりは産後で体形が変わったことを気にしていて、ダイエットをするのだと宣言していた。かつて着ていたサイズのスーツが入るまでは頑張ると言っていたような気がするが、仕事帰りに当たり前のようにスイーツを買ってきて食べるのがここ最近の習慣になっていた。

ダイエットが一向にうまくいっていないせいだろうか。クローゼットの洋服はあれからも増え続けている。多少買いすぎではないかと思うところもあったが、とりあえずスーツを着ておけばいい男と違って女の人にはいろいろあるのだろう。これといって高そうなものでもないし、自分の給料の範囲内で買っている分には泰司には関係のないことなので、そのまま黙っておくことにしていた。

じっと眺めすぎたのか、ゆかりが泰司のほうを見て「食べる?」と訊ねてくる。もともと甘いものが好きではない泰司は首を横に振った。ゆかりの顔は化粧を落としているからか、トーンが暗く、見るからに疲れているようだった。

「疲れてるね」

泰司は冷蔵庫からビールを出し、プルタブを引いた。喉に流し込むと炭酸の刺激が心地いい。

「まあねぇ。なんかさ仕事を当たり前のように押しつけられるようになったのよ……。もう大丈夫でしょって感じで言われるんだけど、まだまだこっちは覚えないといけないことがたくさんあるのに誰も分かってくれてなくて……」

「……まあ人手不足なんだろうな」

泰司はビールを口にしながら相づちを打った。

ゴールデンウィークが明けてからはずっとこんな調子だった。

するとそこで廊下の奥から博樹の泣き声が聞こえてきた。声が聞こえた瞬間、泰司とゆかりの目が合った。

寝かしつけはゆかりの担当だったので、泰司は目をそらしてビールを飲んだ。ゆかりはこれ見よがしなため息をついて博樹の寝ている部屋に向かった。

   ◇

泰司が異変に気づいたのは、それからまもなくのことだった。家族の将来のためにと貯めていた口座から、細かいお金が何度も引き落とされていた。

 

●妻・ゆかりの職場復帰で慌ただしくなった泰司の家庭。増え続ける洋服、毎晩のスイーツ、そして家族の将来のために貯めていた口座から、身に覚えのないお金が何度も引き出されていることに気づいてしまう…… 後編【「私でいられる時間がなかった」貯蓄口座の異変とともに“手伝ってたつもり”の夫が気づいた真実】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。