「お金の返済をすると言い出しました」

内容証明を送って数日後、事態は思わぬ方向に進んだ。

郁子さんから「拓斗がお金の返済をすると言い出しました」と連絡をいただいたのである。

早速事務所に来所いただいて話をうかがう。

内容証明を送付した直後は、激怒した拓斗さんが郁子さんに詰め寄る一幕もあったというが、そうこうしているうちにたまたま拓斗さんの奥さんが内容証明に気づき、借金を返済するよう拓斗さんを説得したようだ。

「学生のころから拓斗は奥さんに頭が上がらないみたいで……」郁子さんも、それを聞いた私も思わず苦笑してしまう。

ただ、一歩間違えば家族間で調停という「泥沼相続」に陥りかねなかったことを思うと、背筋がぞっとする思いでもあった。

遺言書は万能ではない

遺言書は相続争いを防止する上で大きな力を持つ。ただそれは手続き面の話に過ぎず、感情面については無力な場合もある。

こと今回のように親子間でのお金の貸し借りが絡む場合などは、遺言書があってもトラブルを避けられないこともある。

遺言書の作成をご検討中の方は、家族間の借金については、できる限り生前に精算しておくか、相続後の返済について生前に説明しておくべきだ。

遺言書の作成とは、単に財産の分け方についての指示書を作ることではない。家族関係を守ることも遺言書の目的である。

相続をきっかけに家族が崩壊するケースは決して珍しくはない。家族間でお金の貸し借りがある場合は、きちんと明確にして、丁寧に対応するようにしていただきたい。

※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。