「もう家庭裁判所で手続きするしか」
後日、郁子さんと悠莉さんが、拓斗さん抜きで、私の事務所に相談にやってきた。
郁子さんは「拓斗が全く聞く耳を持たず……、相続手続きが進められません」と苦しい表情で私に語る。
続いて悠莉さんは「母と相談したのですが、もう家庭裁判所で手続きするしかないかと思ったのですが、いきなりもなんですし……、内容証明から入ってもいいのかなって思ってるんです」
内容証明とはいわゆる内容証明郵便のことだ。いつ、誰に、どのような内容を送ったかを郵便局が公的に証明してくれる。厳かな書面が本人限定で送られるため、非常に高圧的な伝達方法となる。
何か法的な効力があるわけではないが、裁判前の最後通牒など、相手にプレッシャーをかけたい場合にしばしば用いられる。
「内容証明を送って効果があるか分かりませんけど……。私たちも家庭裁判所で争うのは本意ではないですし……」と悠莉さんが力なく言葉を発する。
私はしかなたく同意した。
「そうですね……。たしかにいきなり家庭裁判所で手続きするにはハードルも高いですし、やってみましょうか」
相続争いがまとまらない場合は家庭裁判所にて調停するほかないが、ハードルが高い。その代わりにたかが1枚の書類に過ぎない内容証明の送付で済むならこんなに楽なことはない。
私は急ぎ書面を作成し翌日に送付した。
