反省と再出発

翌朝、希美がリビングで洗濯物をたたんでいると、まどかがスマホを片手に近づいてきた。

「お母さん」

「なに」

「昨日、私もちょっと調べたんだけどさ」

まどかはそう言って、画面を見せた。抱っこで外の音や人に慣れさせること、子犬のうちは刺激に驚きやすいこと。昨夜、希美が読んだものと似た内容が並んでいた。

「知らなかった。私、遊ぶことしか考えてなかった」

思わず希美は手を止めた。まどかは目を伏せたまま続ける。

「かわいいって思ってたし、ちゃんと世話するつもりだった。でも、なんか、かわいがるだけかわいがって終わってた気がする」

「うん……」

素直に反省するまどかにどう返そうか迷っていると、隆二もテーブルの向こうから口を開いた。

「俺も同じだな。帰ったら遊ぶとか、世話するとか言って、結局、全部希美に任せてた。引き取るときはあんなにはしゃいでたくせにな」

「そんなつもりじゃなかったんでしょ」

思わずそう言うと、隆二は苦く笑った。

「そんなつもりじゃなくても、そうなってたなら同じだろ」

リビングが少し静かになる。りくは柵の中から、3人の顔を見比べるように首を動かしていた。やがてまどかが柵のそばにしゃがみ込んだ。

「りく、ごめんね」

希美はその背中を見ながら、胸の奥にたまっていた陰鬱な感情が少しずつ消えていくのを感じた。

「私もね」

希美は静かに口を開いた。

「1人で抱え込まず、ちゃんと不安だって言えばよかったのかもしれない。犬を飼うなんて初めてで、大丈夫かなって思ってたのに、そのままにしてたから」

隆二が顔を上げる。

「お義姉さんから頼まれたときも、希美は不安そうだったもんな。勢いで決めちゃったけど、引き取る前にもっと話し合えばよかった。ごめんな」

「ううん、流れで決めたのは私も一緒。お姉ちゃんが困ってたから断りづらくて……でも、引き受けるなら、ちゃんと勉強しないといけなかったんだと思う」

そこで、まどかが振り返る。

「ねえ今日さ、抱っこで外行ってみる? 家の周り1周するだけでも」

「そうねえ」

希美はりくを見た。小さな柴犬は柵の中で耳を立て、こちらを見返している。

「うん。やってみようか」

そう答えると、まどかの表情がぱっと明るくなった。隆二も「俺も行くよ」と立ち上がる。

「りく、おいで」

まどかが、柵の扉を開け、そっと手を差し出した。

りくは短いしっぽをちぎれんばかりに振っている。窓の外では、やわらかな朝の光が庭先の植木の葉を静かに揺らしていた。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。