りくが戸惑っていた理由

「りくのことは、明日からみんなで考えよう。今日はもう遅いから寝な」

「うん……おやすみ」

2人が寝室へ引き上げたあとも、希美はしばらくリビングに残っていた。りくは柵の中で丸くなっている。

昼間の大騒ぎがウソのようだ。

希美はスマホを手に取り、犬の飼い方についてのページをいくつも開いた。散歩は生後3カ月ごろから。そのこと自体は家族も知っていた。だから、まだ外を歩かせられないのは仕方がないと思っていたが、読み進めるうちに、歩けるようになる前から抱っこで外へ連れ出し、音やにおい、人通りに少しずつ慣れさせることがあると知った。

「抱っこ散歩か……」

希美は画面を見つめたまま動けなくなった。

そんなことは知らなかった。りくはまだ散歩できないのだから、家の中で様子を見るしかないと決めつけていた。

さらに読み進めると、落ち着きのなさや興奮しやすさの裏に、環境の変化や刺激への不慣れ、不安やストレスがある場合もあると書かれていた。短い説明の1つひとつが腑に落ちる。りくはただ手のかかる犬なのではなく、知らないものばかりの中で、戸惑っていたのかもしれない。

「……ごめんね」

眠っているりくに向けてこぼれた声は、自分でも驚くほど小さかった。

家族として引き取ると決めたのに、希美はいつの間にか、目の前の作業だけを片づけることに追われていた。知らなかったでは済まないことがたくさんある。

りくは寝返りを打ち、柵の中で小さく鼻を鳴らした。希美はスマホを閉じてもすぐには立ち上がれず、薄暗いリビングでその寝姿を見つめ続けた。