豪邸での新生活と小さな違和感
さすがに夫婦で働いているのも他の従業員の目が気になる、という理由で絵美は宏臣の家での生活を始めると同時に事務所を辞め、専業主婦になった。
もともと掃除や料理は嫌いではなかったが、家が広い分やりがいのある掃除も食材がいいおかげで妙に美味しく作れる料理も、絵美にとってはとても楽しいものだった。気がかりだったみやびとの関係も良好で、新しい家族との新しい生活に絵美はすぐになじんでいった。
そんな日々が1週間ほど続いたある日、絵美はいつものように出勤する宏臣と登校するみやびを見送るために玄関に向かった。
「行ってらっしゃい」
「今日は会食あるから、食事はいいよ。終わったら連絡する」
「うん。でも無理しないでね」
絵美が送り出そうとすると、ふと思い出したようにみやびが顔をあげた。
「あ、お父さん、お小遣いちょうだい。今日、学校終わったら美優たちと遊びに行くから」
宏臣はみやびの言葉にうなずいて、カバンから財布を取り出し、1万円札を3枚渡した。
「大事に使うんだぞ」
「うん」
2人にとってはごく当然の光景のようだったが、絵美はその場に固まった。
小学生のお小遣いに3万円は多すぎるんじゃないか。遊びに行くってどんなところに……。そんな問いばかりが頭のなかを巡り、絵美は結局、2人に何も言うことができなかった。
