新年度が始まったばかりの4月初旬、絵美は緊張しながら洗練されたアートのような鉄門の前で息を飲む。ゆっくりと伸ばした手でインターフォンを押すと、なんだか聞き馴染みのない高級そうな音がした。

自然豊かな郊外に構えられた一軒家――周りの家とは見るからに違うおしゃれな家に住んでいるのは絵美の婚約者である宏臣だった。

宏臣は建築事務所の社長をしていて、バツイチ子持ち。絵美は宏臣の建築事務所でパートで働いていたことで知り合い、年が近かったこともあって交際に発展していた。プロポーズをされたのが、だいたい1週間前。今日は、宏臣の一人娘であるみやびのことも紹介すると言われ、初めて家に招待されたのだ。

鉄門の向こうの新しい家族

宏臣の歓迎する声がスピーカーから聞こえ、鉄門が自動で開く。絵美は石造りの庭を横目に玄関へと向かった。

「さあ、どうぞ。中に入って」

玄関に入った瞬間、絵美は目を見張った。大人が5人並んでも余裕がありそうな広さの玄関に大理石のような床と品の良い間接照明まであり、まるで一流ホテルのエントランスのようだった。

「……お邪魔します」

絵美は気後れしながらも部屋に足を踏み入れ、宏臣は背後を振り返って廊下の奥に声をかけた。

「みやびー、挨拶をしなさい」

みやびという名前を聞いて絵美は少し緊張する。

宏臣から、前妻はまだみやびが小さいときに亡くなったと聞いている。「女の子だからか、何考えてるか分かんないし、絵美が家族になってくれると心強い」と笑って話していた宏臣だったが、10歳の女の子と関わることなどない自分が、新しい母親としてうまくやっていけるかはやはり不安だった。

やがて宏臣の声に応じて廊下の奥のドアがゆっくりと開き、女の子が出てきた。肩までの髪は丁寧に整えられていて、淡い色のカーディガンにチェックのスカートを合わせた姿は10歳にしては大人びて見える。靴下や髪留めまできちんと色味が揃えられていて、おしゃれに気をつかっているのが一目で分かった。