みやびの笑顔に触れた日
絵美は歩いて目の前に来たみやびに挨拶をした。
「初めまして。こんにちは。絵美です」
みやびもぺこりと頭を下げた。
「……こんにちは」
「それじゃリビングに行こうか」
絵美は出されたスリッパを履いて、宏臣たちの後に続いた。案内されて向かったリビングは広々としていて、上質そうなソファやガラステーブルがゆったりと置かれていた。宏臣はリビングテーブルに絵美を座らせ、みやびはその斜め前にちょこんと座った。
「絵美はアイスコーヒーでいいよね?」
絵美は立ち上がって自分でやろうとするが、宏臣が笑顔でそれを制した。
「いいから、座ってて。みやびはオレンジの炭酸ジュースでいい?」
オープンキッチンにいる宏臣が飲み物を準備してくれているあいだにも、みやびはすぐにスマホを取り出して何か操作を始める。絵美も聞き覚えのある軽快なBGMが聞こえてきた。
「みやびちゃんもキラコレタウンやってるんだよね?」
絵美の言葉にみやびは少し驚きながらうなずく。
キラコレタウンはミニゲームでゲットできるアイテムを使い、犬やキリンなどのデフォルメされたキャラクターを着せ替えしてデコレーションするアプリだ。対象年齢的には明らかに若い子向けのゲームだろうが、何を隠そう絵美も少し前までがっつりハマっていた。なにより、娘がハマっているキラコレタウンについて教えてほしいと宏臣から聞かれたことが2人の交際のきっかけでもあった。
「私もそれやってたんだ」
「……本当に?」
「うん。イベント限定衣装とかかわいいの多いよね」
絵美の言葉にみやびはちらりとこちらを見てきた。
「……今ちょうど新しいイベントをやってるの」
「へえ、そうなんだ」
そう言うとみやびはスマホの画面を見せてくれた。そこにはかわいらしい服装を着たキャラクターの姿があった。絵美もそれなりにやりこんでいたほうだったが、みやびが持っているアイテムは数も多いし、どれもレア度が高い。なかには絵美がどうしても手に入らずに諦めたものもいくつかあった。
「わぁ、この組み合わせすごいかわいいね」
絵美が褒めるとみやびは照れくさそうに目線をそらした。
「でしょ」
「うん、すごくいい。色の合わせかたが上手だね」
絵美は素直に感想を述べるとみやびは嬉しそうに頬をほころばせた。ついさっきは大人びて見えたけれど、こうして笑うと年相応の10歳の女の子だ。
それからも、絵美は宏臣を置いてけぼりにしてキラコレタウンの話でみやびと盛り上がった。帰り際、みやびは少し照れくさそうに宏臣の後ろに隠れながら、
「またね、お母さん」
と言ってくれた。
「またね、みやびちゃん」
インターフォンを押したときの緊張はとっくに消え去っているどころか、名残惜しささえ感じながら絵美は宏臣の家を後にした。
