小学校時代の苦い記憶

「とりあえずまだ買う前なんだしさ、もう一度竜星に気持ちを確かめてみたらどうだ? 意外と日が変われば考え方も変わるかもしれないし」

「……そうね。もう一度確かめてみるわ」

「楓さんの言ってることも分かるけど、やっぱり一番大事なのは竜星の気持ちだと思うわよ」

「……もちろんです」

楓は真面目な顔でうなずいた。そのまま話し合いは終わり、芙美子も自室に戻っていった。2人きりになり洋介が楓に質問をしてきた。

「……ずいぶん、かたくなだけどさ、何をそんなに気にしてるんだよ?」

「……私が小学生のときに赤いランドセルを使ってた男の子がいるのよ。家庭の事情でお姉ちゃんのお下がりを使ってたみたいなんだけどね。その子、みんなからからかわれたり、陰で笑われたりしてたのよ。もしそれが竜星だったらと思うとさ」

楓の話を聞いて洋介は腕を組んだ。

「……気になるのは分かるけど俺たちのときとは時代が違うだろ。ランドセルの色くらいで、とやかく言ってくる子はもういないよ」

「……あなたも赤でいいと思ってるのね?」

「竜星がそれを望んでるならな」

洋介の答えを聞いて楓はため息をついた。

これだけ否定されるということは自分の考えは間違っているのかもしれない。けれど、もし竜星がつらい思いをする可能性があるのなら、そういう危険は前もって取り除いてやるのが親の役目ではないのだろうか。

●ランドセル売り場で迷わず赤を選んだ息子の竜星。夫の洋介も義母の芙美子もその選択を受け入れるなか、楓だけはかつて赤いランドセルでからかわれていた同級生の姿が頭をよぎり、どうしても賛成できずにいた…… 後編【入学式で赤いランドセルを背負った息子…母親が集団下校の列を見て思わず立ち止まってしまった理由】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。