尾崎良恵さん(仮名・36歳)は実母に連れられ、私のもとへ相談に訪れました。
「本日はどうぞよろしくお願いいたします……」
か細い声で挨拶をした良恵さんの顔色は青白く、覇気が感じられませんでした。
良恵さんは2年ほど前から患っているうつ病が原因で仕事を辞めてしまい、いまだに再就職の目途が立っていません。収入の不安を主治医に相談したところ「障害年金を請求してみてはどうか」と勧められました。しかし、家族だけで請求をすることには不安が残ります。そこで社会保険労務士である私の協力を求めることにしたそうです。
良恵さんには夫と小学生の子がいます。夫は働きながら育児や家事にも参加してくれていますが、それも限界があります。そこで現在は良恵さんの実母にも時々助けを借りながら何とか生活をしているそうです。
子どもに恵まれ、子育てに仕事に奮闘していたはずの良恵さん。一体なぜうつ病になってしまったのか。私はその経緯から伺うことにしました。
愛する息子の特性に翻弄され、募る自己嫌悪
良恵さん夫婦には拓海君(仮名)という子がいます。のちに検査でわかったことなのですが、拓海君には発達障害がありました。
発達障害には様々な特性が現れます。特性の強さは人それぞれで、日常生活や仕事にそれほど支障が出ないものもあれば、かなりの支障をきたしてしまうものもあります。発達障害は生まれつきの脳の障害であり、特性を自分でコントロールすることはなかなか難しいともいわれています。
拓海君の場合、1つの物事に集中することがとても苦手でした。興味関心が移ろいやすく、食事中に遊び出してしまうのは日常茶飯事。外出時には、目を離した隙にすぐどこかへ行ってしまい、良恵さんは真っ青な顔でそこら中を探していました。
朝、良恵さんには拓海君の支度に加え自身の出勤準備もあり、時間の余裕はありません。しかし拓海君はまったくお構いなし。制服を着せ靴下をはかせてもすぐにぬいで遊びだしてしまうのです。また拓海君は感情のコントロールも苦手で、少しでも気に入らないことがあると、大声で騒いだり泣き出したりしてしまいます。
何度注意しても言うことを聞かないので、良恵さんは毎日叱ってばかり。できることなら我が子を叱りたくないのに、つい怒りに任せて叱ってしまう。そのことで自己嫌悪に陥ってしまうのでした。
