「本当に返したんだって!」
「本当に返したんだって! 信じてくれよ!」
裕翔さんは熱心に訴える。だが、そこは親族の間で長年培われた裕翔さんのイメージの問題もある。かつて問題児だった裕翔さんの発言を誰も信じようとはしない。
「迷惑なのでやめてもらえませんか?」お金が絡む分唯さんも強気に出てくる。
そうなるともう互いに「自分の言い分のほうが正しい」と譲らず、話し合いは長引くことになる。
初日は私も仲裁に回り、「一旦お互い冷静になって後日話しましょう」と間を取り持ち、事なきを得た。
一度時間を置けば双方とも冷静になり、話ができるだろうと私も甘く考えていた。しかし、その翌週も同じような流れとなり、まったく解決には至らなかった。
こうした話し合いは半年近くに及んだ。何度か殴り合いに発展しかけることもあり、私が止めに入らなければどうなっていたかを考えたくもないようなこともあった。
しかし、事態はあっけないほど簡単に幕を下ろす。見かねた裕翔さんの妻、美子さんが仲裁に入ったからだ。
裕翔さんは美子さんにはまったく頭が上がらない。同様に、唯さんもかつて自身の両親と進路でも揉めた際に仲裁してもらった経験もあり、やはり美子さんには頭が上がらないのだ。
美子さんは二人から話を聞いたうえで、改めて、裕翔さんの直近の口座の動き、正紀さんの生前の発言、周囲の証言などを丁寧に深堀し、かつ、確認もしていった。
結果、「裕翔さんは確かに返済していた」と見るのが妥当という方向に話は流れていった。
最初こそ「でもそんなのは……」と不服そうな唯さんではあったが、信頼していてお世話になった美子さんから改めて状況証拠を提示されていくうち徐々に口数が減っていった。
そして、最終的には唯さんが「わかりました、私が冷静じゃなかったかもしれません」と納得し、相続を辞退する形でまとまった。
