義母の離脱と迫る本番

それぞれの仕事をこなしつつ農事始めの準備を進めていたが、とあるアクシデントに見舞われてしまう。志乃がぎっくり腰になってしまったのだ。

朝、起き上がるときに痛めてしまったらしく、それからしばらくは安静にしないといけなくなった。基本的に布団で横になっていて、トイレに行くときにも恵理の肩を借りないといけない状況だった。当然、ご飯も居間では食べられないので自分の部屋で食べるようになった。

恵理は夕食をお盆にのせて志乃の部屋に向かった。

「ご飯、ここに置いておきますね」

「……ああ、分かったよ」

志乃は浮かない声で布団に寝転びながら答えた。痛みのせいもあるが、志乃はずっと元気がなかった。おかげで嫌味を言われることもなくなったが、それはそれでさすがに少し心配だった。

「……農事始めはどうするんだい?」

志乃は心配そうに聞いてきた。農事始めはもう明後日に控えている。

例年であれば恵理と志乃の2人で料理やお事汁を準備していたが、この様子だと志乃は戦力にならないだろう。

恵理は志乃を見て静かに答えた。

「今年は私が1人でやりますから。お義母さんはここで安静にしておいてください」

「……1人でやれるの?」

「やるしかないですよ」

「……ちゃんとやってちょうだいよ」

志乃からのお願いに恵理はうなずき、部屋を出た。

1人でやるとなったら早めに食材を仕込み始めたほうがいい。恵理は心の中で行程を考えながら誰もいない静かな居間で夕食を取った。

●夫・典文を亡くし、義母・志乃と2人で米農家を守る恵理。嫌味に耐えながらも農事始めの準備を進める中、志乃がぎっくり腰で倒れ、すべてを1人で担うことに…… 後編【「こんなものを出すなんて嫌がらせじゃないか」義母に罵倒されたお事汁が絶賛…農業始めが変えた嫁姑の距離】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。