朝5時に目を覚ました恵理は白い息を吐きながら寝室を出て居間に向かった。米農家である勝本家に嫁いで15年、同じ時間に起き続けたので体に染みついていた。

居間に入るとこたつで義母である志乃が新聞を読んでいる背中が目に入った。

「お義母さん、おはようございます」

「あいさつはいいから早く朝食の準備をしてくれる? こっちはペコペコなんだよ」

志乃の嫌味に恵理は軽くため息をついて居間の隣にある客間へと向かった。客間には仏壇が置かれていて、その仏壇には義父と並んで夫である典文の遺影が置かれていた。恵理は写真の中で照れくさそうな笑顔を浮かべる典文に手を合わせた。

夫を亡くして1カ月

典文が亡くなってすでに1カ月が過ぎていた。白血病と診断され、できるかぎり手を尽くしはしたものの、あっという間に天国へと旅立ってしまった。以来、心にぽっかりと穴があき、何をやっても昔ほど笑ったり悲しんだり怒ったりできなくなったような感じだった。自分の人生において典文という存在の大きさをかみしめながら恵理は勝本家で生活をしていた。

居間に戻ると、志乃が冷たい目でこちらを見てきた。

「早くしてくれ。典文だってあんたに手を合わせられたってうれしくもないだろう」

昔から何かと突っかかってくるところはあった。ただそんなときはいつも典文が守ってくれていた。しかし典文が亡くなった今、志乃を注意してくれる人は誰一人としてこの家にはいなかった。

恵理はうんざりとした気持ちを抱えながら台所に行って朝食の準備に取りかかった。味噌汁と昨日の晩ご飯の残りだった肉じゃがを温めたものを皿に盛り付けた。準備を終えて、恵理はちらりと居間に目を向けたが、志乃の姿はなかった。