(3)人手不足から人材不足へ
ここまでみてきたように、日本の人手不足の実状は、日本全体で労働力が不足する「完全雇用」状態というよりも、業種や職種によるミスマッチが主因であるといえます。また、人手不足倒産についても、生産性の高い業種や企業へ労働力が移動する過程で生じているのであれば、必ずしも否定的に捉える必要はなく、むしろ経済の新陳代謝としてプラスに評価することも可能です。
さらに、経済産業省は、国内投資の拡大や産業構造の転換を踏まえ、2040年の将来見通しを提示しています〔図表8〕。あわせて、その将来見通しを基に、就業構造の推計も行っています〔図表9〕。
その推計によれば、少子高齢化に伴う人口減少で労働供給は縮小するものの、AI・ロボットの活用促進やリスキリングによる労働の質の向上によって、大きな人手不足は生じないと見込まれています。具体的には、約189万人分の不足を補えるとされており、人手不足が深刻化する可能性は低いと評価しています。
一方で、現在の人材供給の傾向がこのまま続いた場合、下記のように職種間や学歴間でミスマッチが生じるリスクがあると指摘しています。これは、日本の雇用環境が「人手不足」から、より質的な「人材不足」へと変質しつつあることを示唆しています。
≪職種間のミスマッチ≫生成AI、ロボット等の省力化に伴い、事務、販売、サービス等の従事者は約300万人の余剰が生じる可能性。多くの産業で研究者・技術者は不足傾向。とりわけ、各産業でAIやロボット等の活用を担う人材は合計で約300万人不足するリスクあり。
≪学歴間のミスマッチ≫研究者や技術者等の専門職を中心に、大学・院卒の理系人材で100万人以上の不足が生じるリスクあり。また、生産工程を中心に、短大・高専等、高卒の人材も100万人弱の不足が生じるリスク。事務職で需要が減少する一方、現在供給が増加傾向にある大卒文系人材は約30万人の余剰が生じる可能性あり。
したがって、政府は、現在生じている業種間・職種間の人材ミスマッチに加え、将来の産業構造の変化を踏まえた職種別・学歴別のミスマッチの推計結果も考慮しつつ、企業によるリカレント教育の充実や、第三者機関(人材紹介会社・ハローワーク)の高度化による円滑な労働移動を促進する必要があります。さらに、企業や教育機関と連携して戦略的な教育改革や人材育成の方向性を示した上で、具体的な体制整備に早急に着手することが求められています。
[図表8]国内投資拡大・産業構造転換を踏まえた2040年の将来見通し
※2040年新機軸(定性的)シナリオ:人口減少下でもAI・ロボット活用や官民の積極的な投資(2040年までに200兆円)により、一人一人が豊かになれる「成長と分配の好循環」を実現する未来像
〔図表9〕2040年の就業構造推計
(注)試算方法:労働需要については、新機軸ケースの産業別就業者数を、足下データ(2020)の産業×職業×学歴別比率で分解し、その上で①産業別の自動化影響による職種の変化、②職種ごとの学歴構成の変化を加味。労働供給については、2040年就業者数*を、産業別・職業別就業者数の足下の増減傾向が続くと仮定して産業×職業別比率を推計、分解(学歴については、最終学歴に大きな変化が生じないという仮定のもと、大学進学率の上昇を加味しつつ、年代に応じ、足下比率(2020)をスライド)。*2023年度版労働力需給の推計(JILPT)の労働参加漸進シナリオを活用
後編では、前編で分析した人手不足の実状を踏まえ、人手不足経済の下でこそ効果を発揮する高圧経済政策や日本経済の課題等について考察します。
なお、本稿における意見にかかわる部分および有り得るべき誤りは、筆者個人に帰属するものであり、所属する組織のものではないことを申し添えます。
【参考資料】
-経済産業省経済産業政策局「経済産業政策の新機軸」第4次中間整理について https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/20250603_report.html
(執筆:MUFG資産形成研究所 研究員 根本浩之)
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