(3)人手不足の深刻度合い
日銀短観の雇用判断DIでは(〔図表5〕の赤線)、2025年12月時点での2026年3月の予測でマイナス41と、1991年9月以来約34年ぶりの深刻な人手不足状況を示しています。
○雇用人員判断DI(日本銀行「短期全国企業経済観測調査」・四半期)とは
・企業の雇用人員の過不足についての判断を示す指数
「雇用人員が過剰と感じている企業の割合」-「雇用人員が不足と感じている企業の割合」
・金融機関等を除く、全国の資本金2千万円以上の民間企業約23万社の中から毎回選定した企業(現行約9,100社)が調査対象
完全失業率(〔図表5〕の黒線)は、2025年10月時点で2.6%となっており、1990年代の最低水準である2.0%や、アベノミクス期の最低水準2.2%と比べると、労働需給はそれほど逼迫していない状況にあります。特に、2020年のパンデミック以降は、完全失業率と雇用人員判断DIとの乖離が目立ち始めており、単に「人手が足りない」というよりも、働く環境や条件に対する求職者のこだわりが強まっている傾向がうかがえます。
○完全失業率(総務省「労働力調査」・月次)とは
・15歳以上の働く意欲のある人(15歳以上の労働力人口)のうち、仕事を探しても仕事に就くことができない人(=完全失業者)の割合で、完全失業者÷労働力人口×100にて算出
・完全失業者とは、以下の3つ要件を満たす人だけが該当
① 仕事がなくて調査週間中に少しも仕事をしなかった
➁ 仕事があればすぐ就くことができる
③ 調査週間中に仕事を探す活動や事業を始める準備をしていた
→計算式の分子「完全失業者」、分母「労働力人口」双方の人数が同じように増減してしまう結果、分子「完全失業者」の増減に影響されやすく、不況時に失業率を押し下げたり、好況時に失業率を押し上げる傾向あり
〔図表5〕雇用人員判断DI(日銀短観)と完全失業率の推移
そこで、より身近な求人・求職活動を反映する有効求人倍率を職業従事者別に確認すると、下段の「人手不足業種」と、上段の「人手が足りている業種」の二つに大きく分かれます。特に、人手不足倒産が多い「建設・採掘」は5.18倍と、全体平均の1.10倍を大きく上回り、深刻な状況にあります。一方で、「事務」は0.43倍と全体の半分以下で、むしろ余剰状態にあります。
この状況は、「有効求人数」と「有効求職者数」の分布にも表れています。企業は「専門的・技術的職業」や「サービス職業」の人材を強く求めていますが、求職者は十分に集まっていません。一方で、企業側の需要が相対的に低い「事務」職には求職者が偏っており、このような職種間のミスマッチが有効求人倍率に反映されているといえます。
○有効求人倍率(厚生労働省「一般職業紹介状況」・月次)とは
・ハローワークに登録された有効期限3か月間における企業からの有効求人数に対する有効求職者数の割合で、新規学卒者に関する求人・求職は対象外:有効求人数÷有効求職者数
・当月の新たに発生した求人数と求職者数で算出する新規求人倍率も最新の動向を測る指標として注目されている
・ただ、近年ハローワークを通じた入職者割合が低下し(2024年の新卒除きで17.5%)、求人・メディア広告を通じた割合が上昇している(同34.2%)ため、調査対象範囲が狭まっている傾向あり
〔図表6〕職業従事者別有効求人倍率〔常用(パートを含む)、2025年12月〕
ただ、近年ハローワークを通じた入職者割合が低下傾向にあるため、有効求人倍率では求人・求職活動の全体像を捉えにくくなっています。そこで、厚生労働省が実施している労働経済動向の調査結果「産業、労働者の過不足程度別事業所割合」に、賃金水準と労働時間の要素も加味して、業種別・職種別で横断的にみると、ミスマッチ状況がより顕著になります〔図表7〕。
○産業、労働者の過不足程度別事業所割合(厚生労働省「労働経済動向調査」・四半期)とは
・労働者が不足あるいは余剰していると回答した事業所の割合について、業種だけではなく、職種も加味して横断的に雇用人員の過不足についての判断を示しているのが特徴で、日銀短観では対象外とされている金融機関も含まれる
・30人以上の常用労働者を雇用する全国の民営の5,786事業所が調査対象(有効回答数3,226事業所、有効回答率55.8%、2025年11月)
この表は、赤色が濃いほど人手不足が深刻で、青色が濃いほど人手が余っている状態を示しています。人手不足の業種のうち、「建設」「情報通信」「学術研究・専門・技術サービス」など、賃金水準と労働時間がともに平均を上回り年収が比較的高い業種では、職種別でみると「専門・技術」や「技能工」に逼迫状況が確認されます。これは、技能やスキル面でのミスマッチが生じていることを示唆しており、リスキリングによる能力向上支援など、人材育成の重要性を改めて示す結果となっています。
一方、「運輸・郵便」「医療・福祉」「廃棄物処理や整備・修理業を含むその他サービス」など、賃金水準が平均を下回る業種では、「専門・技術」職種における不足感に加え、運輸・郵便のドライバー不足や、対面・対人サービスを担う「サービス」職種の逼迫状況がみられます。これらは、給与水準を含む処遇面でのミスマッチが背景にあることを示しており、賃金の底上げや、本稿冒頭で触れた省力化投資の推進が重要であることを示唆する調査結果となっています。
〔図表7〕業種別・職種別人手不足・余剰感(%、2025年11月)等
※パートタイム労働者比率:事業所規模5人以上、2025年11月時点 平均賃金水準(事業所規模10人以上の常用労働者の所定内給与額、2024年の月次平均)と総実労働時間(事業所規模5人以上のパートタイム労働者を含む2024年実績)は、全業種平均を上回る:△、下回る:▼として区分表示



