頼もしく成長した武彦

その言葉通り夜になって仕事から帰宅してきた博臣に武彦は自らの口で合格を報告した。

「父さん、無事に第一志望に合格をしたよ」

リビングのテーブルに座って博臣は軽く息をついて頷いた。

「……そうか」

「本当に父さんにも母さんにも迷惑をかけたと思ってる。俺のわがままのせいでたくさんのお金を使わせてしまったから」

博臣はちらりと和美を見た。

「使ったのは母さんだよ。俺は何もしてない。だから母さんに感謝をしなさい」

そう促されて武彦は頭を下げてきた。

「母さん、本当にありがとう。このことは絶対に忘れないから」

和美は首を横に振る。

「いいのよ。あなたが無事に合格できた。それだけでもう十分だから」

和美の言葉を聞いた武彦は博臣に頭を下げる。

「父さん、お願いします。大学の学費を払ってください。東京で1人暮らしをすることになって生活費は自分でなんとかするよ。でも学費までは俺の力じゃどうしようもないんだ。だからお願い」

博臣は武彦の願いに首を縦に振った。

「……安心しろ。学費はちゃんと払う」

あっさりと認めてもらえて武彦は驚きの反応を見せた。

「ほ、ほんと⁉」

「……俺がお前を叱ったのはあまりにも簡単に浪人すると言ったことだ。受験することに反対なわけではなかったし、大学に行くことにも反対なんてしてない。ただ何をするにもお金がかかるということを理解してないところを叱ったんだ。そんな状態で大人になったら大変なことになると思ったからな。ただそれはもう分かってるようだし道を間違う心配はなさそうだ」

その言葉を聞いて、博臣も武彦のことをちゃんと考えてくれてたんだと、和美は驚きつつも安堵した。

博臣は武彦を真正面から見据えた。

「その代わりに向こうでもしっかりとやるんだぞ。大学合格はスタートに過ぎないんだからな」

博臣の言葉に武彦は嬉しそうに頷いた。

こうして学費の問題もなくなって、その日の夜は家族3人でお寿司を取って武彦の合格をお祝いした。

    ◇

その1カ月後、4月に入学式を迎える武彦は一足早く1人暮らしをするために家を出ていくことになった。

「じゃあ行ってくるね」

玄関で旅立とうとしている武彦は頼もしい表情で両親を見ていた。

「無理だけはしないようにね。何かあったらすぐに帰ってくるのよ」

「ああ、分かってるよ」

こうして家を出て行く武彦の背中を和美は少し寂しい気持ちで見送った。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。