午後の園庭に、子どもたちの声が響いていた。結衣は、すべり台の順番を待つ娘の心春を目で追いながら、ママたちの声に耳を傾けていた。
「クリスマス、どうする? どこか行く?」
「イルミネーション、混むよねえ」
唐突に聖来が、輪の中心で両手を広げる。
「だったらさ、みんなでパーティーしない? 子どもたちも絶対喜ぶよ」
彼女はいつも場を回す役を買って出る、おしゃれなママだ。
上の子がお受験に成功しており、下の息子も同じ学校を目指しているらしい。学校や塾関連の情報を提供してくれるので、他のママたちからも一目置かれている。
「いいね、それ」
「やりたーい」
結衣は、心春の着替えバッグの持ち手を、無意識に握り直す。
クリスマスパーティー。心春はきっと喜ぶだろう。その光景を想像しながらも、口から出てくるのは「そうですね」といった形だけの相づちだ。
「どこでやる? 誰かんち?」
誰かの言葉に、聖来が「うーん」と首を傾げる。
「うちは狭いしさ、上の子もいるから落ち着かないと思うんだよね。塾の時間もあるし」
さらりと自分の家を候補から外してから、聖来の視線がふっと結衣の方へ向いた。
「そういえば、結衣さんち新築のマンションだよね? あそこ、リビング広いんでしょう?」
「い、いえ、そんなに広くは……」
慌てて否定しかけた声は、途中でかき消された。
「結衣さんって、絶対きれいにしてそうだしさ。子どもたちが走り回っても安心そう。これって、すごくパーティー向きじゃない?」
周りのママたちも、「いいなあ」「うらやましい」と笑った。
