高市氏の「成長戦略」

こうした中、高市氏が総裁選時に経済安全保障の強化と関連産業の育成として「海外からの投資を厳格に審査する対日外国投資委員会を設置」を掲げたことは注目に値する。また、経済安全保障に不可欠な成長分野として、AI、半導体、ペロブスカイト・全固体電池、デジタル、量子、核融合、マテリアル、合成生物学・バイオ、航空・宇宙、造船、創薬、先端医療、送配電網、港湾ロジ等を掲げ、分野毎の官民連携フレームワークにより積極投資を行ない、大胆な投資促進税制が適用されることになりそうだ。

そして、食料安全保障の確立として、農業構造転換集中対策期間(令和7年度~令和11年度)に集中投資を実施し、全ての田畑をフル活用できる環境作り(転作支援から作物そのものの生産支援への転換、精緻な需要予測に応じた米生産の支援・需要の拡大、農地の大区画化、共同施設の再編・集約化、中山間地域支援の拡充、省力化・収量増に資するスマート農業の推進等)を実現するとしている。さらに、エネルギー・資源安全保障の強化面の投資として、地政学リスクに備え「国産資源開発」「国際資源共同開発」に積極的な投資を行なうとしている。

一方、成長投資と人材総活躍の環境づくりとして、スタートアップ減税の恒久化や「ラボから市場へ」のプロセス強化、心身の健康維持と従業者の選択を前提に労働時間規制緩和、産業界のニーズを踏まえて活躍する人材や未来成長分野に挑戦する人材を育成すべく、大学改革、高専や専門高校の職業教育充実等を進めることなども掲げている。

こうしたことからすれば、少なくとも総裁選の公約通りに政策が進めば、日本経済における最大の課題である供給力の強化が進展することになろう(図表3)。ただ、政府による拙速な財政引き締めのリスクもぬぐえず、年末に向けた税制改正の議論などについては細心の注意が必要になるだろう。

そうした意味では、高市氏の経済政策も初期段階では、いかに国民の暮らしと安全・安心を確保すべく、25年度補正予算に政策を総動員し、雇用と所得を増やし、消費マインドを改善し、税収が自然増に向かう「強い経済」を実現できるかにかかってこよう。

その他には、介護・育児・子供の不登校等が原因の離職対策にも注目だろう。具体策として、家政士の国家資格化を前提にベビーシッターや家事支援サービスの利用代金の一部税額控除や、企業主導型学童保育事業を創設し、企業内保育施設や企業主導型施設が病児保育を実施する場合の法人税減免などを掲げている。

さらに、健康医療安全保障の構築として「攻めの予防医療」(癌検診陽性者の精密検査・国民皆歯科健診の促進等)を徹底することで、医療費の適正化と健康寿命の延伸を共に実現するとしている。よって、こうした社会保障政策面でも、高市氏が掲げた公約が進展することが期待される。