「失われた30年」と言われるように長らく経済の停滞が続いた日本。
現在は、9月8日に日経平均株価の最高値が更新されるなど経済の好調も報じられる一方で、物価高など生活の苦しさも社会問題となっています。
日本が真の意味で成長を果たすために必要なものは何でしょうか?
超人気エコノミストの河野龍太郎氏が日本経済の“死角”を論じます。(全3回の1回)
※本稿は、河野龍太郎著『日本経済の死角——収奪的システムを解き明かす』(ちくま新書)の一部を抜粋・再編集したものです。
アベノミクスの大実験の結果
2012年12月〜2020年9月の第二次以降の安倍晋三政権の下では、大規模な拡張財政や金融緩和が続けられました。いわゆるアベノミクス(以下、アベ政策)です。その後、2020年9月〜2021年10月の菅義偉政権と2021年11月〜2024年10月の岸田文雄政権でも、アベ政策が継承されたので、かれこれ10年以上も続けられました。政策当局者は、デフレではない状況になったと早い段階から言っていましたが、株価は上がったものの、今も日本の経済成長率は低いままで、実質賃金も低迷が続いています。
ですから、2024年8月31日に岸田文雄首相が退陣を正式に表明し、9月27日に自民党総裁選で後任として石破茂が選ばれた際、少なくとも経済の専門家の間では、さすがに拡張財政や金融緩和などマクロ経済政策の不足が、日本の長期停滞の原因と考える人は、もはや少数派でした。アベ政策がスタートした2012年末の段階では、金融緩和が不足しているから、日本経済が停滞から抜け出せないと主張されていたわけですが、10年に及ぶ大実験によって、そうした主張が正しくないことは、既に証明されていたようなものだったのです。
現実問題として、岸田文雄政権が退陣に追い込まれたのは、自民党の「政治とカネ」という大きな問題がありましたが、アベ政策の象徴であった日本銀行の異次元緩和の副作用である超円安が引き起こした輸入インフレに、日本の家計が酷ひどく苦しめられ、そのことも政権支持率が低迷から抜け出せなかった大きな要因だと筆者は考えてきました。
石破茂首相に「選挙の顔」を刷新して臨んだはずの2024年10月27日の衆議院議員総選挙では、自民党と公明党の連立与党が過半数割れに追い込まれ、少数与党として、不安定な政権運営を余儀なくされています。