マインドセットの転換──顧客の人生に寄り添う姿勢を
木村:高度なアドバイザリーサービスは、日本の投資家にとっても必要なのでしょうか?
エミル: 顧客のニーズが複雑になるにつれて、例えば退職後の収入設計、世代間での資産移転、教育資金の準備など、多岐にわたる課題が生じます。商品だけに頼るモデルでは対応しきれなくなっていきます。
日本の投資家にも、人生の各段階に応じて進化する助言が求められると思います。商品中心のアプローチでは、全体像を見失うリスクがあります。個々のプロダクトは良くても、統一された戦略がないということです。
高度なアドバイザリーサービスは、より持続可能な価値、すなわち、計画、パートナー、プロセスを提供します。そして何より重要なのは、これらのサービスは硬直的なものではなく柔軟で、顧客の状況に応じて変化すべきであるという点です。
木村:日本のアドバイザリービジネスにとって、米国のRIAモデルから学べることは何でしょうか?
エミル: 出発点はマインドセットの転換です。つまり、商品を売るのではなく、顧客との関係性を築くこと、そして人生に寄り添う姿勢が求められています。
日本の企業はまず、フィーベースモデルの導入、ファイナンシャルプランニングソフトウェアの導入、「傾聴」「共感」「問題解決」に重点を置いたアドバイザー研修プログラムの開発から始めるのが良いかもしれません。投資と計画の両方の専門家を同じチームに配置することは大きな変革となります。
最終的な成功の鍵は、報酬体系と企業文化を顧客の利益と一致させることにあります。それが米国のRIAモデルの根幹であり、日本でも応用し、発展させていけるものだと思います。
木村:今回の対話で改めて感じたのは、米国RIAの「実行力」の高さです。顧客の将来キャッシュフローや目標を丁寧に把握した上で、オルタナティブ資産も組み合わせた機関投資家並みのポートフォリオを構築している点は、想像以上でした。さらに税務や相続まで一貫して伴走しており、アドバイザーというより“プライベートバンク”に近い印象です。こうしたサービスを支える専門家チームとインフラも、期待以上に高度だと実感しました。
日本の資産運用業界でも、米国のRIAモデルを参照する動きが広がっています。だからこそ、現場の実態を届けることには大きな意義があると思います。今回のインタビューをご快諾くださったエミル氏に心から感謝します。今後も、別の角度やより具体的な事例を交えながら、みなさまに有益な情報をお届けしていきます。