頭の中がぐるぐるしている。確かに、忌部や男性の言っていることは正しそうだ。唯一の救いは、ニュートンでも同じ間違いを犯したということくらいか。これから一体どうしたものだろうか。
「トリリオンバイオは売った方がいいでしょうか?」
「それは自分で決めんだよ。てめぇのことだろ」
「そうですよね……わかりました。もうちょっと株価が戻ったら売ろうと思います」
「だ・か・ら、それが甘いんだよ」
「え……!?」
「『戻ったら』なんて言ってるやつは、いつまで経ってもうまくならねぇよ。ダメだと思ったら即売り。これが最初にやるべきことだ」
「で、でも、まだ買う人が出てきて買われるかもしれないじゃないですか。SNSでも『押し目買いだ』って言ってる人も多いみたいですし」
「株価じゃない。これはお前の問題だ。はっきり言うぞ、損切りができないやつは、株でうまくなることはない。それは自分の失敗を認められないってことだからな」
「自分の失敗、いや、俺が失敗なんて……」
言いかけたところで頭をハンマーで殴られた気がした。もちろん、物理的に殴られたわけではない。しかし、俺の前頭葉にはそのくらいの衝撃があった。
「……俺、失敗していたんですね。わかりました。まだもやもやしていますが、トリリオンバイオは今すぐ売ろうと思います」
「バフェットも『誰がカモかわからない人は、自分がカモだ』と言っています。わからない時は、ゲームから降りるのも大事な選択です」
胸につかえていた何かが下りた気がした。負けを認める。これがこんなにも難しく、意味のあることだとは思わなかった。
俺はこれまでの人生、負けを認めたら終わりだと思っていた。ラグビーでも、ノーサイドになるまで勝ちを諦めないことが大切だと教えられた。顧問に𠮟られたのも、途中で諦めてしまったからだ。しかし、今は負けを認められなくて𠮟られているのだ。
自分の人生観が大きくひっくり返った気がした。