個人資産の高齢者への偏在が進んでいる
3つ目の“もったいない”は、人生100年時代と言われ長寿化が進む一方で、個人資産の高齢者への偏在が進んでおり、子育て世代、住宅ローン返済世代に資産が移転されていないことである。少し古いデータではあるが、年齢階級別の実物資産・貯蓄現在高、負債現在高の比較(2009年 二人以上の世帯)というデータがある。実物資産は主に自宅、貯蓄現在高は金融資産、そして負債現在高が主に住宅ローンなのであるが、世帯主が30~39歳では、資産の合計2278万円(実物資産1662万円、貯蓄現在高616万円)に対して負債現在高が878万円、つまり家計のバランスシート的には純資産が1400万円となっている。この純資産は世帯主の年齢が上昇するほど増加し、世帯主が70歳以上では資産の合計5151万円(実物資産3164万円、貯蓄現在高1987万円)に対して負債現在高が127万円、つまり純資産が5024万円となっており、70歳以上の世帯が最もしっかりと蓄えている様子が確認できる。
さらに、被相続人の年齢データを見ると被相続人の高齢化が進んでいる。平成元年における被相続人の死亡時年齢は80歳以上が38.9%であったが、平成25年には同68.3%と約7割に達している。しかも23.7%は被相続人が90歳以上と、この場合の相続人である子の年齢は60歳以上が想定される。つまり、子世代が、自分の子供の教育費や住宅ローンなどで負担が大きくなる現役時代には相続による資産移転が起きづらくなっており、むしろ現役引退後と思われる60歳以降において相続が発生するようになってきているのである。
こういったデータから見えてくるのは、教育費や住宅ローンが重くのしかかっている30~50代の子世代と、将来に対してしっかり備えているそれらの親世代という構図である。このような状況を改善していくためには、資産移転を促進する各種税制優遇の拡充に加えて、世帯ごとではなく親子2世代を対象とした包括的なライフプランシミュレーションを行い、お金を「見える化」していくことが重要だと考えている。それによって、親世代から子世代への積極的な資産移転を促しつつ、何かあったときには子世代がいつでも親世代をサポートできるよう、少なくともお金については親子間でのコミュニケーションを促進しお互いの信頼感を醸成していくことが必要だと考えている。
以上、日本人のお金についての3つの“もったいない”ことと、それぞれの解決案をご紹介させて頂いた。収入を2倍、3倍と増やすのは容易ではないが、手元にあるお金をどのように使っていくか、という使い方については自分でコントロールが可能だと考えている。そのような意味で、より多くの日本人にはお金をウェルスペント(well spent)して頂き、より幸せな人生を送って頂きたいと考えている。