企業側にとっては、ミドル・シニア男性が副業・兼業にチャレンジすれば、新たに獲得したスキルやネットワークが本業に還元されることが期待されます。加えて、勤務日数分の給料が減れば、年功序列の会社ほど、人件費の削減を通じた生産性の向上にも寄与するでしょう。未だ日本では、女性よりも、男性のほうが家庭内で主に経済的責任を担っていることが多く、長期的視野で、目先の報酬と将来のキャリアを天秤にかけたとき、ミドル・シニア男性自身は、副業・兼業を心のなかでは希望しているのです。
さらに、厚生労働省による「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の制定や「モデル就業規則」の改訂の動き、新型コロナウイルス禍を機に働き方が変化したことなどから、大企業でも副業・兼業を認める動きが出てきています。日本経済団体連合会2によれば、2022年時点において、回答企業の70・5%が、自社の社員が社外で副業・兼業することを「認めている」(53・1%)または「認める予定」(17・5%)と答えています。常用労働者数5000人以上では、「認めている」(66・7%)または「認める予定」(17・2%)の合計は8割を超えています。副業・兼業を認めたことによる効果については、「多様な働き方へのニーズの尊重」(43・2%)と「自律的なキャリア形成」(39・0%)を挙げる企業が多くなっており、まさに、先に述べた「キャリア自律」に効果があるということなのです。
2 日本経済団体連合会「副業・兼業に関するアンケート調査結果」 (2022年)
著者情報
宮島 忠文
みやじま ただふみ
株式会社 社会人材コミュニケーションズ 代表取締役社長/中小企業診断士・MBA(社会的企業のビジネスモデル研究)
総合電機メーカーにてエンジニアとしてキャリアをスタート。その後、かねて問題意識を有していた教育事業において教務責任者・執行役員として従事。同時に中小企業診断士として事業再生・新規事業の立ち上げ等を行う。2013年にはビジネスパーソンの能力を最大限発揮できる教育・研修を実現させるべく、社会人材学舎・社会人材コミュニケーションズを創立。以来、ミドル・シニアの活躍支援をミッションとしている。経済産業省、厚生労働省などの人材やキャリア、職業能力、企業の採用戦略等に関する研究会の委員を務めている。著書に『定年がなくなる時代のシニア雇用の設計図』(日経BP・日本経済新聞社・共著)。
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著者情報
小島 明子
こじま あきこ
株式会社日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト
CFP®認定者、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、国家資格キャリアコンサルタント。金融機関を経て日本総合研究所に入社。ミドル・シニアに関する働き方や協同労働に関する調査研究に従事。著書に『中高年男性の働き方の未来』(金融財政事情研究会)、『女性と定年』(金融財政事情研究会)、『定年がなくなる時代のシニア雇用の設計図』(日経BP・日本経済新聞社・共著)、『協同労働入門』(経営書院・共著)、『「わたし」のための金融リテラシー』(金融財政事情研究会・共著)等。
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