金価格の短期的な変動要因
では、なぜ金価格は変動するのか。チャン氏は、その要因を次のように分析する。
「短期的に見て、金価格が上昇する要因は4つあります(図4)。1つ目は期待インフレ率が上昇した時、2つ目は米国の短期金利が低下した時、3つ目は米ドルの価値が低下した時、4つ目は市場の不確実性が高まった時です」

1つ目のインフレ局面については、モノの価値が上昇するのだから、金の価格も上昇することはわかりやすい。2つ目から4つ目は、金が資産の逃避先として選ばれることから理解できるだろう。
足元で金価格が上昇を続ける理由も、この4つめの要因があるからだとチャン氏は説明する。米政府の政策の影響で市場の不確実性が高まり、景気減速を懸念した利下げの期待も高まっている。さらには、これまで強かった米ドルが下落に転じたことも金価格をサポートする要因となったのだ。
「ご存知の通り、4月の初めに米政府による関税政策が発表された直後に株式と米ドルが急落し、リスクオフの動きから円やスイスフラン、そして金が買われるマーケットになりました。貿易戦争が悪化する場合、世界的な景気後退や持続的な不確実性を招く恐れがあるので、世界の投資家がドル資産から離れる動きは今後も徐々に進む可能性があります。その場合、金にとっては引き続き有利な状況になります」
ただし、リスクオフに強い金も、市場の懸念が払しょくされれば株式といった資産に妙味が出てくるので、足元までの上昇がこのまま続くとは限らない。
では、今後の金価格はどのように推移するのだろうか。
(4ページ目:3つのシナリオ)
今後の金価格の推移予測
チャン氏は、「トランプ大統領の政策による世界経済の混乱と地政学的なリスクの上昇により、金価格は幅広い価格帯で変動すると予測します」と説明する。
ステート・ストリートが予測するシナリオは3つだ(図5)。

まずは、基本シナリオである。「基本シナリオとしては、金価格がおおむね現在の価格に近い1トロイオンスあたり3100~3500米ドルで推移するとみています。トランプ大統領の政策による混乱が続くならば、リスク対策として金の需要が依然として高いでしょう。ただし、景気減速の可能性もあるため、2025年の第1四半期と比べると資金流入のペースは減速する恐れがあります。同時に、構造的な買い手である中央銀行の需要も継続しますが、購買のペースは2022年から2024年の間と比べてやや減速する可能性があります」(チャン氏)。
次に、強気シナリオだ。「貿易戦争が悪化し、世界的な景気後退とドル離れの懸念が高まるならば、安全資産への資金流入がさらに増えると考えられます。そうなれば、金価格は1トロイオンスあたり3500~3900米ドルのレンジに達する可能性もあるでしょう」(チャン氏)。
最後に、弱気シナリオだ。「世界的に貿易摩擦が解決し、経済成長が回復するならば、米ドルの価値が高まるでしょう。そうなれば、安全資産としての金の魅力は低下し、金価格も1トロイオンスあたり2700~3100米ドルのレンジに下がる可能性があります」(チャン氏)。
高い水準で推移を続ける金価格だが、今後の情勢次第では、大幅な下落もないわけではない。市場の動向に注目すべきだろう。
続く「金に投資する方法には何があるのか――投資対象としての金の魅力を専門家に聞いた」では、そもそもどのように金に投資できるのか、金に投資するメリットは何かについて解説していく。