賃金を恒常的に上げられる環境を

インフレ対策として日本政府がまず行ったのは、インフレ率の上昇そのものをある程度、とめてしまうことだった。たとえば燃料油価格激変緩和補助金。石油会社に補助金を出し、本来なら1リッターあたり300円にならなければおかしいガソリン価格を補助金によって180円程度で抑えるというもの。実際、諸外国ではあっという間にガソリン価格が値上がりしたのに対し、日本では1リッター当たり180円程度で上昇がとまったため、インフレ率の上昇をそこそこの水準で抑えることに成功したのであった。

一方、インフレ率を抑えるために、石油会社に補助金を出すのは、国民の間に不公平感を生む。日々、自動車を運転する人にとっては助かる政策だが、自動車をまったく運転しない人からすれば、そこだけに補助金が投入されるのは不公平である。

脱デフレを政策の根幹に置く一方でインフレ対策、それも国民の間に不公平感を覚えさせるような補助金制度を導入するくらいなら、賃金を恒常的に上げられる環境を整えることに専心すべきだった。たとえ生活に影響が出る物価高になったとしても、インフレの定着を働きかけていくしかなかったのではないか。

政府・日本銀行は長年脱デフレを唱え、それに向けた政策を講じてきたわけだが、デフレからの脱却が現実化し、デジタル化などで世の中が大きく変わろうとしている今こそ、インフレによる物価高を過度に畏れることなく、むしろインフレが定着していくことに対する国民の意識を変えていく必要がある。

金利上昇は日本のチャンス

 

著者名 中空 麻奈

発行元  ビジネス社

価格 1760円(税込)