「移動=成功」を他者に押し付けたがる人
では、なぜここでネットワーク資本に言及したのか。それは、高い水準でネットワーク資本を有する人々は、高いレベルで地理的な移動を経験しており、興味深いことに、他の人にもかなりの移動性の高さを要求するからである(Elliot and Urry:2010)。つまり、社会的に成功者であると言われたり、そのことを自負したりする人の中には、「移動=成功」を他者に押し付けたがる人がいるのだ。この理由が、ネットワーク資本から説明できる。
インターネットが普及したことでオフライン・オンラインを含む多様な移動が自身のつながりを拡張し、蓄積できる時代に成功したからこそ、移動=成功を押し付ける成功者は、ネットワーク資本を重要なものと認識し、それを口にするわけである。
さらに、ネットワーク資本は、成功者をさらに成功者にし、貧者をより貧者にする、そういった社会的不平等を再生産するメカニズムも有している。このことは、世界で最も裕福で移動性の高い300人の人々が、最も貧しく移動性の低い30億人と同じ収入を得ていることからもわかるだろう(Elliot and Urry:2010)。移動資本とネットワーク資本によって富めるものはどんどん富み、格差が拡大していくわけである。
また、裕福で移動性の高い人々のネットワークは、とくに女性や社会的弱者、ネットワークのメンバーシップに入れなかったり維持できなかったりする他者を、しばしば社会的に差別するような性質もある。実際、資産3000万ドルを超える超富裕層のプライベートジェットの所有状況を中東を中心に調査した結果によれば、男性の所有率が96.8%であり、女性はたったの3.2%であった(WEALTH-X:2023)。
移動と階級
著者名 伊藤 将人
発行元 講談社
価格 1100円(税込)