「移動すれば、成功できる」。そんな言葉を耳にする機会が増えました。

海外移住や旅行、ワーキングホリデー、地方移住、ノマドワーク、海外留学、移民など。コロナ禍以降、人の移動はこれまでになく注目を集めています。

たしかに、移動は新たなチャンスや出会いをもたらすものです。その一方で、誰もが自由に移動できるわけではなく、そこには見えない格差や分断が潜んでいるかもしれません。

社会学者の伊藤将人氏に「移動」がもたらす光と影を見つめ直してもらいます。(全4回の2回目)

●第1回:【移動と階級】移民はなぜイノベーションを生む? データが示す移動の経済的インパクト

※本稿は、伊藤将人著『移動と階級』(講談社現代新書)の一部を抜粋・再編集したものです。

移動が生み出すネットワーク資本

そうなると、なぜ高度な専門性やスキルが、「成功」への移動の効果を高めるのだろうか。移動自体はもちろん重要だが、移動から生まれる“何が”成功の可能性を高めているのだろうか。ここで鍵を握るのが、「ネットワーク資本」である。

おさらいすると、ネットワーク資本とは近くにいる人だけでなく、「必ずしも近くにいない人々との社会諸関係を生み出し維持する力」(Urry:2007)である。ネットワークを活用し、インターネット上の情報から得た知識を活用したり、オンラインの関係を作って維持したり、必要な資源を得るための友人と友人との間接的なつながりも含めたオンライン・オフラインのつながりを指す言葉である。

ネットワーク資本を考え出したジョン・アーリは、著書『モビリティーズ』の中で、「社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)」という考え方との関連でネットワーク資本を説明する。それは、つながりの効用とでも言えるものである。アーリによれば、社会関係資本は、定住主義、つまりは移動がない地域社会やコミュニティを前提としており、強く濃いつながりと近しいコミュニティを前提とする点で今の時代に合っていない部分がある。長距離移動が広く発達し、さまざまな社会関係がますますグローバル化している状況があまり踏まえられていないというわけである。