「LINEでの贈与」は法律的にどう扱われる?
では、ここで高橋さんと祖母との間の出来事は法的にどのように解釈されるかを確認しよう。
民法550条では「書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない」と記されている。つまり、LINEや口約束の贈与は、履行(実際にお金が渡る)前なら、たとえ約束していても取り消し可能とされている。
高橋さんのように、実際に金銭の授受がされておらず、書面も存在せず、LINEのみでの贈与の約束である場合はどうなるのか。このケースは法的には書面ではなく口頭に準ずるとされ、撤回できる可能性がある。
しかも、LINEのスクリーンショットは改ざんの可能性もあり、証拠能力としては不十分と判断されることもあり得る。加えて、贈与者が贈与前に死亡した場合はその相続人が贈与を拒否すれば撤回が可能である。
そもそも、家族という近しい関係性の中で感情が絡む相続争いは、法律以上に“説得”や“圧力”がものを言う場面も多い。少額の争いであれば、弁護士費用を考慮しても「割に合わない」と判断され、泣き寝入りせざるを得ないこともある。
諦めるという高橋さんの行為だけを見れば「なぜ?」と思われる方も多いかもしれないが、ある意味では高橋さんの諦めは妥当であるのだ。
LINEのやりとりが当たり前の時代、あなたはどう備えるか
高橋さんのケースは、祖母がその気になれば簡単に防げたことだった。たった1枚の贈与契約書。日付と金額、署名と押印。それだけで、法的に贈与が成立し、相続人から否定される余地はなかった。
あるいは、実際に50万円を高橋さんに振り込んでおくことで、贈与が“履行”されたことになり否定されることはなかった。
口頭での約束はもちろんLINEのメッセージは、やはり法的な裏付けに乏しく、何か想定外の事態が起こってしまったり、当事者の気が変わったりするだけで簡単に踏みにじられる。
「祖母の想いを、書面で残していれば……」
高橋さんの後悔は自分の将来への教訓にもなったという。
相続や親族間の贈与は、感情とお金と法律が複雑に絡み合う。だからこそ、「うちは大丈夫」「家族だから」といった曖昧な考えでは、思わぬトラブルを招くリスクがある。
これから親や祖父母と贈与や相続の話をする人たちへ。
「どうか、その言葉を“証拠”にして残してほしい。LINEでのやりとりは、ほんの一時の記録かもしれないですが、そこに詰まった想いを守るには、法的な『形』が必要です」
高橋さんは私と本件に関する話の最後をそのように締めくくった。
※プライバシー保護のため、内容に一部変更を加えています。