2018年、大手仮想通貨取引所コインチェックから約580億円分の仮想通貨NEM(ネム)が不正流出する事件が発生しました。社内ネットワークがマルウェア(コンピュータウイルス)に感染し、ネットワーク上の資産が奪われたとされています。
“現代の銀行強盗”とも呼ばれるこの事件を入り口に、仮想通貨や暗号資産とは何か、なぜこれほどまでに注目されるのか。その仕組みを、コア・コム研究所代表の山本御稔氏に解説してもらいます。(全4回の2回目)
●第1回:現代の銀行強盗「コインチェック事件」が問いかけた「お金の新常識」
※本稿は、山本御稔著『「本当にあった事件」でわかる金融と経済の基本』(日本実業出版社)の一部を抜粋・再編集したものです。
サトシ・ナカモトが論文に書いたこと
さて、サトシ・ナカモトは論文でビットコインについて何を記したのかを見てみましょう。
論文の初めには「完全なP2P電子通貨の実現により、金融機関の介在なしに、利用者同士の直接的なオンライン決済が可能となるだろう」と書かれています。「P2P」とは“ピア・ツー・ピア”のことで、仲介機関とのやりとりなく直接の取引ができることを指しています。要するに仲介機関が不要で、個人同士での取引ができると言っているのです。
私たちはお金と言えば日本銀行といった中央銀行が発行する法定通貨で、それを民間銀行の口座を通じて送金したりするのですが、ビットコインの世界では介在する仲介機関は不要で、個人間のインターネットだけで法定通貨ではない別の通貨(暗号資産)でやりとりしようと言っているのです。

彼はそのためにデジタル署名が必要と言います。
「デジタル署名とは私たちがタブレットにタッチペンでサインする単なる署名ではない。データの作成者であり保有者が、そのデータを安全に送信するために、そして安全にそのデータを開封するために必要な電子上の署名だ」と言います。
ただ、デジタル署名だけで問題が解決するわけではありません。ビットコインのような暗号資産の世界では、お金の流れを記録する金融機関は介在しません。責任者もいません。すべては無名の人たちだけでのやりとりなので、その無名の人たちによって意図的に、あるいは意図せずに起きてしまうようなミスをなくさなければなりません。ここで問題になったのがダブルスペンディングです。
“ダブルスペンディング”とは、日本語だと「二重払い」と訳されますが、インターネット利用の観点からはこれを「データの改ざん」と考える方がわかりやすいでしょう。金融機関がかかわらない中でデータの改ざんもなくさなくてはならないのです。