彼氏が新たに始めた趣味

「ご馳走様。美味かったよ」

この日もいつものように清志が住んでいるマンションで家デートをしていた。休日の昼間だったが、外には出ずに家でまったりと過ごすのが最近のお決まりになっていた。

清志は葵が作ったカレーを美味しそうに完食するとソファに座ってスマホを弄りだした。テーブルの上にはゴルフ雑誌が何冊も積まれてあり、そのことに葵は家に来たときから気付いていたが、ずっと黙っていた。自ら説明をしてくれるのを待っていたがどうやら清志にそんなつもりはないらしいので仕方なく葵の方から質問をする。

「ねえ、これ何? ゴルフなんてやってなかったよね?」

「ん? ああ、それね。先輩から誘われてやってみようかなってなったんだよ。そんで今は雑誌とか呼んで勉強中なんだ」

葵は清志を見つめる。

「……ゴルフって色々、お金が掛かるんでしょ?」

「まあね。ひとまずクラブとか買ったんだけど、全部合わせて20万くらいだったかな」

あっけらかんと清志が言い放った額に葵は固まる。

「……え? もう買ったの?」

清志は無邪気な笑顔を見せてくる。

「こういうのはかたちから入らないとさ。ほら、レンタルじゃかっこつかないだろ? 来週には届く予定で、その次の週にはもう初ラウンドに行くんだ。もーめっちゃ楽しみだよ!」

葵は清志の笑顔から目を背ける。

「……そんなにお金を使って大丈夫なの?」

「イケるイケる。ローンだし。夏のボーナスも入ってそれで払えるからさ」

得意げな清志の声が腹立たしかった。もちろんゴルフのお金を言ってるのではない。

「将来のこととか、ちゃんと考えてる?」

「いやまあ、何とかなるでしょ? 別に借金とかがあるわけじゃないし」

「……そう」

葵は目を閉じてうなずいた。いいや、うなずいておくしかなかった。彼の考えは結局、いつまで経っても変わることはないのだろう。まるで違う言葉で話しているみたいだった。それくらい、葵と清志のあいだには深い断絶があった。

もうそれ以上、清志と話す気にもなれず、葵はサブスクの映画を観ることにした。すると清志も「あ、これ俺も観たかったやつ」と自然と隣にやってきた。

「え、清志ってホラー好きだったっけ?」

「いや、これはなんか面白いんだって言われてさ、気になってたんだ」

「ふぅん」

映画はたとえば血が飛び散ったりするような派手さこそないが、じわじわと首を絞められるような怖さがあった。

ふいに、テーブルの上に置いてあった清志のスマホが震えた。2人そろって響いた音に驚き、視線をスマホに向けた。

「ごめんごめん」

清志はすぐにスマホをポケットにしまったが、スマホの画面に表示されていた通知バーを葵は見逃さなかった。

そこには、マッチングアプリのアイコンが葵を嘲笑う幽霊のようにポップしていた。

●なぜマッチングアプリが……。嫌われるようなことでもしたのか。何か不満があったのか。葵の脳裏にさまざまな思いが湧き上がる。そして葵は意を決して、清志にマッチングアプリをダウンロードしたワケを問いただすのだった。後編:【「こいつどうしようもないな」8年付き合った女性も見限る、ダメ彼氏がつぶやいた「開いた口がふさがらない」最後の言葉】にて詳細をお届けする。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。