いい加減、決断した方がいいよ
「でもさ、いい加減に葵も決断した方がいいよ。彼氏さんとの将来のことをさ」
「それは別れるってことを、だよね?」
千紗は真面目な顔でうなずく。
「葵の言う通り、私たちは32なんだよ。このまま清志さんとの結婚を目指すっていうのならまだいいけど、別れて新しい人を見つけてその人と結婚するってなったら、時間はかかるでしょ? 子供のこととか色々なことを考えると悠長に悩んでいる時間もないと思うし……」
千紗の言葉は厳しいようだが、友達として葵のことを思いやっているというのが十分に伝わった。だからこそ言葉に重みがある。
葵は何も返せず、黙ってうなずくことしかできなかった。
将来を考えると別れたほうがいいのかもしれないことは、葵だって分かっている。しかし簡単に生活から切り離すことができないほどの長い時間を清志と共に過ごしてきてしまっている。
お金のことは不安だ。だが逆に言えば、不安なのはお金のことだけなのだ。仮に記念日をサプライズでお祝いしてくれたとしても、もう付き合いたての頃のようなドキドキを胸に抱くようなこともなかったが、それはたぶん清志と過ごすことが特別ではなく日常になっているからなのだと思う。
それに、今から清志と別れて新しい人と恋愛をやり直せる自信がない。それならば別にこのままでもいいかと、現状維持を望んでいる自分もいる。
考えてはみたものの、答えはすぐには出そうになかった。