彼氏との結婚に前向きになれない理由
千紗には清志のことを何でも話している。だから葵が清志との結婚に対して前向きになれてない理由を何となく分かっているのだろう。
清志は1歳年上の33歳で、葵が24歳の頃から付き合い始めた。不動産の営業マンで収入も安定している。優しいし、葵だけじゃなく葵の周囲に対する気づかいを忘れない細やかさがある。周りの友達からはよく“優良物件だ”と言われる。
だが――
「やっぱりね、お金のことがしっかりできてない人と結婚するのはちょっとね……」
清志は浪費癖があり、収入は高いはずなのに貯金がほとんどなかった。
「相変わらずなんだね……」
「まあ今は年収も上がって、生活が苦しいとかそういう問題はないんだけどね。付き合い出した当初はいっつも金ないとか言ってたし」
千紗はコーヒーを飲んでため息をついた。
「だとしても貯金がないってのはね……。結婚式とか新婚旅行とかもお金かかるけど、何があるか分かんないから貯金はある程度しておきたいよね」
「そういうのも私は一応、言ってはいるんだけどね。でも全然何にも変わってくれないのよ」
とはいえ清志が悪い人、というわけではない。付き合って長いのに記念日は絶対に忘れないし、プレゼントやサプライズだって付き合いたてのころから変わらずしてくれる。
よく言えば気前がよくて優しいということになるのだろう。だがそれだけでこれから先の何十年、一緒に生きていけるのだろうかという現実的な不安が葵にはつきまとっていた。
千紗は軽くこちらをのぞき込んでくる。